日本人投資家のリテラシーはそれほど低くない

新型コロナウイルスの感染拡大が広がる中、海外の投資家は投売りをしてしまいました。図表1は欧米の投資家が2019年以降にどの程度、投資信託を売買したのかを示しています。見てのとおり、欧米では2020年3月に過去最大級の大きな資金流出が発生。中でも社債に投資する投資信託に大きな流出がみられました。

日本では、欧米の投資家は金融リテラシーが高いと言われることが多いですが、当然、リテラシーが低い投資家もたくさんいます。そのような投資家は、預金金利よりも高いインカムの獲得を目指して、社債を投資対象とした比較的リスクの低い投資信託に投資していました。ところが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で社債価格は暴落し、恐怖からパニック売りをしてしまったのです。

【図表1】米国及び欧州の投資信託への資金流出入額(ネット、除くETF・MMF)
出所:モーニングスター

日本の投資家は同期間にどのように対応したのでしょうか? 図表2は日本の投資家の投資信託の売買動向を示しています。

【図表2】日本の投資信託への資金流出入額(ネット、除くETF・MMF)
出所:モーニングスター

この表から日本の投資家が2020年3月に投資信託を購入したことが確認できます。欧米の投資家は危機時に投売りをしてしまいましたが、日本の投資家は、絶好の買い場だと思って投資を始めたり、追加投資をしたりする人が多かったのだと考えられます。これは、リーマンショックのような危機時の経験を生かしている人が増えている、もしくは下落時でも市場に買い向かっていく積立投資を活用している人が増えていることの1つの証拠といえるのかもしれません。

一般的に日本の投資家は金融リテラシーが低いと言われていますが、データを見る限り、決してそんなことはありません。むしろ長期投資のスタンスがしっかりと取れているのです。ですから、日本の投資家には今後もしっかりと自信を持って投資を継続していただきたいと思っています。

危機時に実践すべき2つのこと

そうは言っても、今のジェットコースターのような市場が怖くて逃げ出したくなっている人もいるでしょう。そんな人に、資産運用ビジネス一筋で生きてきた私から大事なメッセージを2つお届けしたいと思います。

1つ目は、投資においては、損失が発生している状況で売らなければ負ける回数は減る場合があるということ。これまで株式市場は大きく上下変動しながらも拡大しているため、損失が発生している時には我慢して持ち続け、プラスになったタイミングで売ることができれば、勝者になれる可能性が高まるのです。

では、いつまで我慢すればよいのでしょうか?参考までにリーマンショックのケースを見てみましょう。ここでは、ある投資家がリーマンショック直前の2007年12月末に100万円で投資を始めたとします。その後、2008年9月にリーマンショックが起こり株式市場は暴落しました。そして、それがきっかけで金融システムが大混乱したため、株式市場が元の水準に戻るまでに、米国株式で5年2カ月、日本株式では7年9ヶ月の時間がかかりました(図表3)。5年や7年という時間は長く感じるかもしれませんが、いずれにしても最終的には長期で我慢できた人のリターンはプラスとなり、勝者となることができたのです。

【図表3】:2007年末に100万円を一括投資した場合
出所:東京証券取引所、S&P、AB

2つ目は、積立投資であれば回復のスピードが速まるということ。最近では「つみたてNISA」や「確定拠出年金」で積立投資を行っている人も多いと思います。積立投資では、例えば市場の下落に伴い、投資信託の基準価額が大きく下がっている時に割安に購入できるため、その後の回復は速くなる特徴があります。

実際、先ほどと同様、2007年末に積立投資を始めた人が、リーマンショックを経て、投資元本を回復するのに要した期間は、米国株式で4年1ヶ月、日本株式で5年となりました(図表4)。つまり、積立投資のほうが、回復が早くなっているのです。もちろん長期投資はよいのですが、長期・積立投資のほうが、より危機に強いということです。

【図表4】2007年末から毎月2万円を積立投資した場合
出所:東京証券取引所、S&P、AB

すでに積立投資を実施している人は、安心して続けていただきたいですし、一括で投資を始めた人は、ここから積立投資も始めて回復を早めることを検討してもよいと思います。将来のリターンを考えると今が踏ん張りどころです。