市場は原油価格急落による不穏なムードから落ち着きを取り戻す

先週は、4月20日にNY原油(WTI)先物5月限の価格が一時マイナス40ドルまで急落するという驚天動地の事態となったことで、一時的にも市場全体に不穏なムードが漂うこととなりました。

とはいえ、今回の原油先物価格の急落は「極めて深刻な感染症のパンデミック下で生じた先物取引固有のテクニカルな事情によるものであったに過ぎない」と捉えることもでき、徐々に市場は落ち着きを取り戻しつつあります。

それにしても、NY原油先物相場で実にショッキングな出来事があったわりに金融市場全体の反応が比較的穏やかであったという点が印象的でした。本来、それほどのマイナスのインパクトであれば、米国株の下落をより大きなものにしてもおかしくはなかったはずです。

それにも拘らず、同日のNYダウ平均の下げ幅は前営業日終値比で592ドルの下げに「留まった」のです。4月2日安値から4月17日高値までの上げ幅が3,500ドル超もあったことを考えれば、600ドル弱の下げなど「調整の範囲内」と言って良いでしょう。

振り返れば、3月初旬以降にNYダウ平均が20,000ドルを割り込んで一時的にも16,000ドル台前半の水準まで急落するに至った最初のきっかけは、一つに石油輸出国機構(OPEC)加盟国と非加盟国との間で行われた減産協議が決裂し、原油先物価格が急落したことにありました。

VIX指数は40前後の水準まで低下

もちろん、その当時からこれまでの間には、米国をはじめ日・欧などでも大規模なスケールの政策がそれぞれの政府・当局から矢継ぎ早に打ち出されることとなったわけで、その点こそが今最も注目すべきポイントであると思われます。

世界各国・地域において打ち出された数々の経済政策は、徐々に市場に安心感をもたらしはじめています。その結果、一頃80超の水準まで高まっていたVIX(恐怖)指数も足下では40前後の水準まで低下してきています。

むろん、このVIX指数が一つの判断の分れ目とされる40をクリアに下回り、より低い水準で安定的に推移するようにならない限り、なかなかリスク資産に対して積極的にはなりにくいということも事実です。そして、そのためにはやはりパンデミック収束のメドが、ある程度はつくようになることが重要でしょう。

よって、今しばらく米ドル/円は上にも下にも動きにくい状況が続くと見ておくのが適当であろうと思われます。少なくとも、今は直ちにドルだけが力強く買い上げられるといった状況でもなければ、同様に円だけをどんどん買い進むといった状況でもありません。

実際、4月半ば以降の米ドル/円は非常に狭いレンジのなかでのもみ合いに終始し続けています。それは、VIX指数が40前後の水準をウロウロし続けている、つまりパンデミックの行方がいまだ不透明なままであることに因ると思われます。

経済再開ガイドライン公表の米国が一歩リードか

ここで考えておきたいのは、少し長い目で最も強みを発揮すると見込まれる通貨は米ドルなのか、それとも円か、あるいはユーロなのかということです。それは、一つに「コロナ禍の封じ込めに、いかに早期にメドをつけるかにかかっている」と考えて良いでしょう。

換言すると、それは「いかに将来的な財政不安を低減させることができるか」ということです。そのためには一刻も早くコロナ禍を封じ込め、できるだけすみやかに景気を立ち直らせて財政に空いた穴を塞いでいくことが求められます。

わが国におけるウイルス感染の現状は言うに及びません。欧州の一部では制限解除の動きが見られるものの、一方ではイタリア債の利回りが強含みになるなど、信用不安の影もチラついています。その点、米国は経済再開のガイドラインが公表されたこと一つとってみても一歩リードしているようです。やはり、当面は米ドルの価値の評価が最も高まりやすいと思われます。