マネクリにてご執筆いただいておりましたオフィス・リベルタス 創業者 取締役、大江 英樹 氏が2024年1月1日にご逝去されました。心より哀悼の意を表し、ご冥福をお祈り申し上げます。

-----

退職金というのは多くのサラリーマンにとっては生涯でまとまったお金が手に入る唯一の機会と言っていいだろう。金融資産が一挙に増えることによって、それをどう活用すべきか、真剣に考える人は少なくない。

特に昨年話題になった「2,000万円問題」で不安を煽られた多くの人が、より熱心に運用を考えるであろうことは想像に難くない。

しかしながらまとまった資金を手にすることで、金融機関も積極的な勧誘をしてくるだろう。そうした勧誘等に惑わされることなく冷静に退職金の運用については自分自身でしっかり考えることが大切だ。

そこで実際に8年前に定年退職を経験し、サラリーマンとして退職金を手にした筆者がその経験に基づき、考えた「やるべきこと」と「やってはいけないこと」をお話したい。

退職金の使い道

まず退職金という資金の性格を考える場合の大前提として筆者が考えるのは「安易に取り崩さず、できるだけ先延ばしをすべきだ」ということである。サラリーマンの退職後に入ってくるお金として考えられるのは、(1)公的年金、(2)60歳以降働いて得る収入、そして(3)退職金である。

一方、退職後にお金が出ていく要因としては、(1)日常生活費、(2)娯楽・趣味などの自己実現費、(3)一時出費、医療・介護費用などが主なものである。

資金性格と用途を組み合わせて考えた場合、まず日常生活費はできる限り公的年金でまかなうべきだろう。それで足りない趣味や娯楽などにかかる費用は働いて得る収入でまかなう。これらに共通するのはある程度かかる費用が読めることである。

これに対して(3)の一時出費や医療・介護費用などはなかなか読めない費用である。したがって、退職金や自分が今までに蓄えた金融資産は安易に取り崩すのではなく、こうした読めない費用に充てるべく備えておくべきだ

退職金で資産運用

そのために退職金で「やるべきこと」は何だろう?答えはお金の購買力を維持することである。資産運用の目的は言うまでもなくお金を増やすことだが、「積極的にリスクを取って儲けよう」という考え方と「お金の購買力を維持しよう」という2つの考え方がある。退職者の場合はどちらかと言えば後者の考え方で資産運用すべきだ

というのは、公的年金の場合はある程度物価や賃金に連動するため、将来物価上昇が起こってもあまり影響はないが、自分が持っているお金(退職金含む)の場合、何もせずにいると物価上昇が起こった場合はお金の価値が下落してしまう。

高齢者にとって本当に必要なのはお金そのものではなく、生活が維持できるための購買力なのだ。したがって、リスクの取れない人であれば、個人向け国債変動10年を中心に考えればいいだろうし、ある程度リスクをとっても良いと言うことであれば、リスク資産としてグローバルに分散されたパッシブ型の投資信託を積立ながら少しずつ購入していくというのも良い方法だと思う。筆者自身も定年後はずっとこのスタイルで積立を続けている。

退職金で「やってはいけないこと」

一方、「やってはいけないこと」は、「退職金投資デビュー」である。特に今まで投資の経験の少ない人がもらった退職金でまとめて株式や投資信託を購入するのは絶対禁物である。それによってうまく行けばいいが、悪くすれば、何割もの退職金を一度に失うことになりかねない。

多くの人は、退職後の収入を現役ほどは期待できないのであるから退職金の運用は慎重に考えるべきだ。もしリスクを取れるということで投資をするのであれば、前述のように少しずつ積立で投資を行うべきだろう。

退職金は長年勤めたことに対するご褒美ではなく、あくまでも給与の後払いだし、余裕資金ではなく、老後の備えに必要な資金なのである。その退職金の運用については“やるべきこと”と“やってはいけないこと”を自分自身のケースでよく考えた上で判断していただきたい。