前回のコラム「【2020年税改正】控除額の変更で、会社員や年金生活者に思わぬ落とし穴」で、2020年から控除が見直されたことにより、給与所得控除や公的年金等控除を受けている方は社会保険料負担が重くなってしまう可能性があるというお話をしました。
そこで今回は、これに関し、国民健康保険(国保)を例に取って詳しくご説明したいと思います。自営業や年金受給者だけでなく、会社員の方も勤務先の事業所が健康保険に加入していなければ、自分で国保に加入して保険料を納める必要があります。
国保の保険料は「均等割」と「所得割」で算出
ご存じの方も多いと思いますが、国保の保険料は居住する地域によって異なります。一般的に都市部よりも保険財政の逼迫した地方の方が高くなる傾向があり、数年前には平均所得者の保険料水準を表す標準化指数の市町村間格差が最大で3.7倍に上りました。
こうした格差是正のため、2018年度からは市町村が担っていた財政運営を都道府県に移管し、市町村が徴収して納めた保険料を、都道府県が高齢化の進行などに配慮しながら各市町村に分配するスタイルへと転換を図ったのです。
その結果、従来は市町村によってまちまちだった保険料の算出方法が、世帯の人数に基づく「均等割」と、世帯収入に基づく「所得割」によるもの(二方式)に統一されてきています。将来的には同じ都道府県であれば同じ保険料となり、地域間の較差も是正されていくでしょう。
この「所得割」算出のベースとなるのが「旧ただし書き所得」と呼ばれる算定基準所得で、
所得(総収入-必要経費※)-基礎控除(33万円)
※給与所得控除、公的年金等控除を含む
の式で算出されます。
ここの基礎控除は2020年から見直された所得税の基礎控除とは別物で、国保の算定基準所得には配偶者控除や社会保険料控除などの各種控除は適用されません。
よって、給与所得控除や公的年金等控除の適用を受ける人は、両控除が一律10万円カットされることにより、その分、算定基準所得金額が膨らんでしまうのです。結果として、算定基準所得に一定の料率を乗じた保険料の所得割額も増えることになります。
控除の変更により保険料や高額療養費の負担が重くなる?
影響が及ぶのは国保の保険料だけではありません。
国保では、保険適用の診療に関しては年齢や所得に応じて1ヶ月間の自己負担限度額が決められており、それを上回った分は申請すれば払い戻してもらえます。「高額療養費」と呼ばれる制度です。
この高額療養費の自己負担限度額も、算定基準所得金額によって変わります。
例えば、70歳未満の国保加入者だと算定基準所得金額が210万円超600万円以下の人は
8万100円+(かかった医療費-26万7000円)×1%
ですが、600万円超901万円以下になると
16万7400円+(かかった医療費-55万8000円)×1%
と、一気に負担が増えます。
境界線付近の方だと、給与所得控除や公的年金等控除のカットが響いて自己負担限度額のランクが上がってしまう可能性もあるわけです。
このほか、低所得者が国保の保険料軽減措置を受ける場合も、この算定基準所得で判断されます。
配当は申告時に「住民税は申告不要」を選べば国保に影響しない
さて、本コラムを読まれる方の中には、2月17日から始まる確定申告で、株式の配当の申告を考えている方も多いと思います。
配当所得は原則、税率20.315%(上場株式の場合、復興特別所得税を含む)の源泉徴収で申告不要ですが、配当を含めた課税所得が900万円以下の人は配当控除を加味した実質税率が20.315%を下回るため、申告して総合課税を選択する方が税金面では有利になります。
一方で、国保の加入者には、「申告して所得が増えることで、国保の保険料負担が重くなるのではないか」という懸念もあるでしょう。
これに関しては、申告の際に所得税は「総合課税」、住民税は「申告不要」を選択することにより、国保の保険料に影響を与えずに済みます(平成29年度税制改正により、所得税と住民税で異なる課税方式を選べるようになっています)。
こうした仕組みは自治体の方でも認識しており、中には、次の東京都府中市のようにウェブサイトに詳しい案内を掲載しているところもあります。詳細を知りたい方は、お住まいの自治体の担当部署に問い合わせるといいでしょう。