アメリカ人は買い物好きの国民と言われている。日米のGDPに占める個人消費額の占める割合を見てみると、日本が56%に対し、アメリカは68%とほぼ7割となっている。

その買い物好きのアメリカ人が1年で最もお金を使うのがクリスマス商戦の季節だ。伝統的に毎年11月第四木曜日の感謝祭がホリデーセールと呼ばれるクリスマス商戦の始まりとなり、年末まで好調な売上げが続く。

1623年に始まったと言われる感謝祭はもともとは教会で礼拝をおこない、神に感謝を捧げるという宗教的な意味合いの日であったが、現在ではアメリカ人にとってたくさんの親族や友人が集まる大規模な食事会で、家族の絆を深める大切な家族行事の1つとなっている。

 

感謝祭の主人公は七面鳥の丸焼きだ。米国で最も七面鳥の消費が多いのがこの日だと言われ、88%のアメリカ人が七面鳥の料理を食べると言われている。また、この日はニューヨークの百貨店メーシーズが行う世界最大級のメーシーズ感謝祭パレードが行われる。1924年から続いているパレードの様子は番組として全米向けに生中継され、毎年5,000万人以上のアメリカ人に視聴されている。

感謝祭の木曜日は祭日なのだが、翌日の金曜日については、州によって祭日であったりなかったりという具合だ。祭日でない州の多くのアメリカ人も金曜日に休暇を取り、4日連続の感謝祭休暇としている。

ブラックフライデーとサイバーマンデー

感謝祭を家で家族とゆっくり過ごした翌日の金曜日は、ブラックフライデーと呼ばれる大バーゲンセールの日であり、ショッピングシーズン開始の日となっている。まさに、メーシーズというアメリカを代表する百貨店が、「買い物をするならメーシーズを忘れないでくださいね」というリマインダーをパレードで全米向けに発信した翌日のことだ。ブラックフライデーをきっかけに、全米でその年最大のショッピングシーズンが始まる。

だが、金、土、日曜日に実店舗で買い物をしたアメリカ人のショッピングはこれで終わらない。

 

週明けの月曜日は今度サイバーマンデーと呼ばれており、米国ではネットショッピングでの買い物が急激に増える日が待っている。

日本の小売店でもブラックフライディセールや、サイバーマンデーセールを真似する所も出てきたようだが、そもそも、ブラックフライデー、つまり「黒い金曜日」とは一体どういう意味なのか。

色々な説があるのだが、私が一番信ぴょう性のあると思っているのがこういう話だ。米国では小売店の簿記は売上が赤字だと赤字で記帳され、黒字の場合黒字で記されていた。年初から感謝祭まで赤字だった店でも、このブラックフライデーの金曜日をきっかけに売上増に転じ、赤字が黒字(ブラック)に転換したため、ブラックフライデーと呼ばれるようになったという説だ。

事実の程はわからないが、赤字が黒字に代わるくらいの勢いのショッピングシーズンが始まる季節であることは間違いないようだ。米国のテレビのニュースを見ると、ブラックフライデーの日の店の開店時間になると買い物を待ちわびたアメリカ人がバーゲン商品を求め店に流れ込む映像を目にする。

2008年には、世界最大のスーパーマーケットチェーンであるウォルマートのオハイオ州コロンブスの店舗では、19歳の女性と男性客が1,000ドルから798ドルへ値下げしたサムソンの大型テレビを巡り警備員と警察官を巻き込む大騒ぎがあったと報道された。

この女性は、「これは私のテレビだからね!」と主張し続け、一歩もひかなかったそうだ。最終的には男性客はその場から立ち去り、その40インチのテレビは無事彼女のものとなったそうだ。これは極端な例だろうが、ブラックフライデーがバーゲンハンターのアメリカ人にとっていかに重要な日なのか垣間見ることができる話だろう。

では、サイバーマンデーの名前の由来なのだが、こちらは2005年辺り、米国でネットショッピングができるようになった当時、まだアメリカでは自宅のインターネットの速度は遅く、多くのアメリカ人は会社に出社して会社の高速インターネットを使ってネットショッピングをしたことからサイバーマンデーと呼ばれるようになったそうだ。

クリスマスショッピングはスマホで済ます

コンサル会社デロイトの調査によると、今年はホリデーセール期間の買い物のうち59%がオンラインで行われ、36%は実店舗で、5%がカタログショッピングになるということだ。また、スマホ保有者のうち今年は約7割のアメリカ人がスマホを使って買い物を行うのだという。2年前の回答は59%で、昨年は67%と着実にスマホを使ってクリスマスの買い物をする消費者が増えている。

買い物の方法についての調査によると、69%は買いたい物をネットで調べ、実店舗で買い物をすると答えており、57%はその逆で実店舗で商品を調べてからネットで購入するという。

ネットで注文してから、自分で店舗まで取りに行くというパターンも人気があり、BOPUS(Buy Online Pick Up in Store)と呼ばれている。

昨年11月にNRF(全米小売協会)が行った調査によると、45%の回答者がネットで注文してもわざわざそれを取りに行くつもりだと答えている。その理由として挙がっているのが、送料を払いたくないという回答が一番多く(64%)、今すぐ必要(37%)、このサービスの割引券があるから(36%)、いずれにしても店舗に行かなければならないから(31%)といった回答が理由に挙がっている。

このブラックフライデーなのだが、小売業界もあの手この手を使い他社との差別化を図っている。通常お店は朝9時とか、10時に開店すると思うのだが、お店によっては感謝祭の夕方4時にオープンしたり、七面鳥を食べ終えた木曜日の深夜零時にお店を開けたりしていた。

近年ではブラックフライデー・プレビューだとか、ブラックフライデー・カウントダウンセールなど、感謝祭の前にバーゲンセールを始める動きも出てきた。日本でも状況は同じであろう。そういえば東京でも11月になったばかりなのに、コンビニの店舗でクリスマスケーキの注文を受けていたのを見て驚いた。

今年のクリスマス商戦の見通しと堅調な個人消費

今年のホリデーシーズンセールの売り上げ(11月と12月の2ヶ月分)の見通しなのだが、NRFによると、前年比3.8~4.2%増の7,279億ドル~7,307憶ドルになると予想されている。これは過去5年間の平均の3.7%を上回るものだ。ネットでの買い物は前年比11%~14%増え、1,626憶ドル~1,669憶ドルになると予想されている。

現在の米国経済のファンダメンタルズの堅調さを考えるとこの見通しには現実味が出てくる。失業率は50年来の低水準、今年の1月から9月までのアメリカ人の1時間当たりの時給は3.2%増えている。

今年3回行われた利下げのおかげで住宅ローンの金利負担も減少した。車社会の米国だが、今年はガソリン価格も前年同期比で下がっており、アメリカ人の家計の助けとなっている。先に発表された11月の米ミシガン大学消費者マインド指数(速報値)は3ヶ月連続して上昇している。

アメリカ人にとって不安材料の1つであった米中の貿易交渉もいい感じで進展が見られる。株式市場の方も史上最高値を更新しており、これも消費者のセンチメントを明るくしている。現在の米国の個人消費の底堅さは米国の小売店にとって最高のビジネスの環境といえるのではないか。

この環境においてクリスマス商戦で恩恵を受ける3つの参考銘柄を紹介したい。

参考銘柄

アマゾン(Nasdaq: AMZN)

 

このような環境の中、最も恩恵を受けるのはEコマース最大手のアマゾンだろう。Amazonプライムの会員の読者であればおわかりだと思うが、同社は日本でもこれでもかとアグレッシブなバーゲンセールを行っている。

アマゾンが米国で2005年に始めた翌々日配送は当時の米国では画期的なサービスであったが、今では同業他社も同じようなサービスを提供し、米国では二日で商品が届くのは当たり前のサービスとなってしまった。アマゾンは、今年に入って翌日配達を可能とプライム・フリー・ワンデーサービスを可能とするロジスティックスへの積極的な投資を行っており、今年のクリスマスセールに向けて準備万端で整えている。

 

アマゾンは1,000万以上の商品を全米内で翌日届けられるだけでなく、現在は46の主要都市で100万以上の商品の同日配達が可能となっている。

配達先も、自宅だけでなく、オフィス街のアマゾン専用のロッカーだけではない。50の都市では配達者が注文者の家の中、ガレージ、または、車のトランクの中にまで商品を運び入れる「KEY BY AMAZON」という画期的なサービスを提供している。また南カリフォルニアでは、「Amazon Scout」という、自動運転で商品を配達してくれるカートロボットによる配達サービスを開始すると発表した。

アマゾンがドローンによる配達の実験をしている事は有名な話であるが、クリスマスプレゼントをドローンが配達してくれる日が来るのも時間の問題だ。

ウォルマート (NYSE: WMT)

 

全米最大のスーパーマーケットチェーンのウォルマートもアマゾンの攻めに負けてはいない。

アマゾンのアグレッシブなオンライン・マーケティングに対抗する体制が整っていなかった2015年、ウォルマートの株価は大きく調整した。その後、アマゾンに対抗すべくITやオンライン配達インフラへの大規模な投資を行い、大きな進歩を見せている。

ウォルマートというと1週間の食料品のまとめ買いをするというスーパーというイメージが強いが(筆者の私見である)、クリスマス商戦についても、全米最大の店舗網を活用し顧客のニーズに答えられる体制を整えている。

今年は無料の翌日配達のサービスを開始しており、現時点では全米の消費者の75%をカバーしているという。Walmart.comのホームページ上には、ギフトを簡単に探せるツールやデジタル玩具カタログなども掲載し、顧客にとっての利便性を高めている。また、子どもをターゲットに、11月2日からはポケモン、スターウォーズ、アナと雪の女王のキャラクターを使ったリアルなイベントを開催し集客に力をいれている。

同社は今年の10月に入って「InHome Delivery」というサービスを開始した。当初全米100万人向けのサービスだが、なんとこれは、配達する食料品を、注文者の自宅の中の冷蔵庫に入れてくれるというサービスだ。注文者は、ウォルマ―トのアプリをダウンロードし、ウォルマートの配達人が家の中に入っている様子をカメラのモニターで確認できるのでセキュリティ対策はされているという。

ターゲット (NYSE:TGT)

 

ターゲットは、日本ではあまりなじみのない会社だが、アメリカ人にとっては人気の大型ディスカウントストアだ。ウォルマートと同様、当初アマゾンと競う準備ができておらず株価の下落を経験したが、ウォルマートより1年遅れて配送の体制を整えている。

同社は、もともと低価格と高い利便性を売りとしていた。アマゾンとの競争を経て、2018年には昔ながらの小売りの会社から新しい時代のディスカウントストアへと変革を遂げた。

同社は、今年の6月にターゲットの顧客へ同日配達サービスを提供すると発表した。顧客は1回の配達に9.99ドルの手数料を払うと、Target.comのホームページ上で6万数千のアイテムから選んで購入した商品を同日配達してもらえるという。また、11月1日からは無料配達のサービスも始めている。さらに、大学や市街地に100以上の小型店舗を新規オープンした。

ターゲットの強みは、歴史的に玩具とアパレル関連商品であるが、玩具については新しい試みを始めている。子ども向けにターゲットの25の店舗にディズニーストアをオープンさせ、今後もその数を増やしていく予定だ。

米国事業を清算したトイザらスの親会社TruKidsと提携し、トイザらスのホームページに掲載されている欲しい玩具をクリックすると、自動的にターゲットのホームページに移動し、トイザらスの商品をターゲットにネットで注文できるというコラボレーションを始めている。