電力セクターは少し前まで、中国株を代表するセクターの1つでした。中国経済が発展するのであれば電力は必ず必要になるため、電力セクターは中国経済の成長に比例して安定的に成長する可能性があるという考え方が背景にありました。しかし、インフレと商品価格上昇が顕在化してきている現在、中国の電力会社は1つの壁にあたっています。中国の電力業界は総発電量のおよそ半分を占める大きな5つの発電グループがあります。そして、この中国五大電力グループの2010年1月~11月の利益を見てみると、華能集団(華能力国際発電(香港上場:00902)の親会社)は42.8億元、国電集団(中国電力国際(02380)の親会社)と中国電力投資はともに30.6億元、華電集団(華電国際電力(01071)の親会社)は3億元、大唐集団(大唐国際発電(00991)の親会社)は0.8億元です。 このように5社は全て黒字ですが、内容を細かく見てみると、実は利益を稼いでいる部門は本業の発電部門ではなく、石炭、電解アルミニウム、金融などの電力以外の部門です。電力部門が黒字を計上した会社は華能集団と国電集団の2社だけで、しかもそれは、発電量で大きな部分を占める火力発電部門ではなく、グリーンエネルギー発電による利益貢献です。
中国では火力発電がおよそ7割強、水力発電が約2割の発電量を占めており、クリーンエネルギーはまだまだシェアが小さい状態です。そして、中国五大電力グループも発電量の大きな部分は火力発電が占めています。そして、火力発電部門を見ると、5社とも全て赤字を計上しており、それぞれの赤字額は5億元~30億です。中国電力投資の例を見てみると、同社の利益は30.6億元ですが、そのうち、非電力部門の利益は32.15億元、電力部門の赤字は1.57億元です。そして、電力部門のうち、水力と風力発電は29.1億元の利益を出す一方で、火力部門は30.6億元の赤字を計上しています。このように各社の火力発電部門が赤字となっている原因ですが、火力発電の燃料である石炭価格が商品価格上昇によって大きく上昇し、コストが拡大している一方で、中国政府がインフレを抑えるために電力価格を安価で押さえつけているため、生産コストの上昇を価格に転嫁できない状況が続いているわけです。その他にも、5社は大きな負債を抱えており、負債比率がともに80%以上の水準にあるといった事情もあります。 このように、電力企業にとって主力の火力発電は、利益を稼げない部門になってしまいました。それを意識した五大電力企業は2007年から火力発電以外の新業務開拓に力を入れ始めています。具体的には、水力、風力発電プロジェクト、金融事業などへの進出です。しかしグリーンエネルギー発電の割合はまだ小さく、金融事業は発電企業の本業ではありません。火力発電企業は政府による電気料金の改革を待つことと、グリーンエネルギーへの投資を拡大する方法しかない状況です。もちろん、中国政府も対策を立てています。2010年12月1日、中国発展改革委員会の曹長慶司長は2011年の電力向け石炭の契約価格を2010年の水準に維持させ、いかなる値上げもしないと命じたことを明らかにされました。しかし、この政策がどこまで電力会社の業績に貢献できるかはわかりません。なお、電力会社は前述の五大電力会社の傘下企業の他に、大手地方電力会社である広東電力(深センB株上場:200539)や浙江東南電力(上海B株上場:900949)、風力発電に注力している龍源電力(香港上場:00916)などがあります。