中国国家統計局が12月11日に発表した11月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比5.1%増と10月の4.4%を上回る大幅増となり、インフレ懸念が高まっています。インフレを防ぐために中国人民銀行(中央銀行)は金融引き締めの歩調を速めています。まず、10月19日に3年ぶりの利上げを発表しました。また流動性を抑制するため、12月10日に今年6回目となる準備金率の引き上げを実施し、市場からお金を吸い上げています。特に直近では短期間に3度も準備金率を引き上げたことで、金融引き締めによって中国経済が失速する懸念が高まっています。 この政策の影響で中国の銀行セクターの株価が下落しています。金融引き締め政策は銀行の貸出量を抑制し、そして景気が引き締まれば企業の資金需要も減退し、融資が減少すると利子収入も減るという訳です。ただ、金利の面についてのみ見てみると、銀行の利益の源泉は貸出金利と預金金利の差、つまり利ざやでありますので、一概に利上げと言っても、貸出金利、預金金利の両方が同じだけ上がれば損益には影響ありません。問題は利上げ、利下げのどちらにせよ、一方の金利がより多く上昇するかどうかです。例えば、リーマンショック後の金融緩和局面では、この利ざやは縮小していきました。10月19日に行われた利上げでは、1年物金利は同率で利上げされており、銀行の収益には中立ですが、長期金利は預金金利の方が貸出より上がっており、損益にはマイナスです。しかし銀行預金の半分を占める普通預金については全く上がっておらず、この部分は銀行によってコストが増えず、貸出金利が上がる分だけ得をします。従って今回の利上げはある部分で銀行には有利となり、ある部分は損となり、各銀行の預金や融資残高の期間や構成比によって変わってきます。例えば交通銀行などの大手国有銀行の一部は中、長期貸付金の比率が比較的高いようで、マイナス影響を受ける可能性があります。一方、招商銀行などは普通預金の比率が高いので、プラス影響を受ける可能性があります。しかしいずれにせよ両者は打ち消しあって全体としての影響は大きくないと思われます。

引き締めのサイクルは始まったばかりです。そして、2011年年央に向けてまずは物価を抑制するために引き締め政策が続くと思われます。現在は1年物定期預金よりも物価上昇の方が高く、実質ではマイナス金利となっており、これを解消する必要があります。そのため、どちらかと言えばやや預金金利の方を高めに上げることになりやすく、その意味では、しばらく銀行の利ザヤがマイナスに働きやすい方向にあります。しかし、インフレが収まり出せば、2012年の共産党大会に向けて再び景気刺激策を打って景気のピークに持っていくことが可能となります。こうなってくれば貸し出し増が期待できるので銀行にはプラスです。このような景気サイクルの変動は大きな波としての経済拡大期には必然的に起こることであり、その不安に対しても耐久力が徐々についてくると思います。現在は大きな波として、中国は経済拡大期にあると思いますので、いずれ引き締めの不安を業績拡大への期待が上回っていくのではないかと思います。