こんにちは。桐谷です。
今日私が身に付けているものはすべて株主優待で手に入れたものです(笑)。
さて、第一部に登壇された羽生さんは1985年の暮れにプロ棋士になりまして、私はその前からプロ棋士でしたので、翌年の4月からお互い順位戦に参加しておりました。私も羽生さんも時間を目一杯使う方で、対局が夜中に及んでしまい、よく終電がなくなっていました。
そのため朝5時前にJRが動くまで、控室に私と羽生さんふたりだけということがよくありました。私、結構おしゃべりなので、彼がニコニコしながら聞いているのがいつものパターンでした。
バブルの時代に株式投資と出会う
私は25歳でプロ棋士になって、29歳くらいからいろいろなところで将棋を教えていたのですが、月1回、証券マンの団体の囲碁将棋クラブで教えるようになりまして。ある日、私の家の近所の証券会社に知り合いの支店長が転勤してこられて、そこに挨拶に行ったのが株式投資との出会いです。
ある株を25万円位で買いましたら、バブルの時代ということもあり、1ヶ月もしないうちに5万円位儲かりました。しかも私が株式投資を始めたと聞いて、将棋部のほかの人たちから、「うちでもやって下さい」とどんどん言われまして。
日経平均株価も、私が株式投資を始めたときは1万円にも満たなかったのが、5年位で取引時間中の高値では3万8957円(終値ベースでは史上最高値38915円87銭)に。
当時私も某スポーツ新聞紙に「株式投資で1億円儲けた」とか書かれたこともありましたが、バブルが崩壊して儲けた分を損してしまったこともありました。
そうすると、夜は眠れなくなり、睡眠不足等も影響して将棋の順位戦でも10戦全敗してしまいました。1年くらい株式投資をやめて、ほとぼりが冷めたころにまた始めて少し儲ける、損をする、の繰り返しでした。
リーマンショックでどん底に。しかし救いの手が…
私は2007年、57歳のときに棋士を引退しました。これからは将棋の勉強をしなくていいから、株式投資の勉強をしようと思った途端、信用取引を利用していましたがサブプライム問題が起こり大損してしまったこともありました。
さらに糖尿病が悪化して、健康診断を受けに行ったら、ヘモグロビンA1cの値が13でした。だいたい6以上が糖尿病なので、医者にも生きているのが不思議と言われました。そのときの家賃は13万円でしたが、60歳前に引退したのでまだ年金は出ていないし、収入もなくて、本当に死ぬかなと思ったのですが、そういうときに株主優待券が届くんです(笑)。
私は2006年に日経マネーの取材を受けまして。そのときの見出しが「資産3億円、悠々自適の桐谷さん」でした。そのころから優待株を200銘柄位持っていたのですが、当時は資金があったということもあり、さらに優待銘柄を買い進めていた時期でした。
リーマンショック後、オリエンタルランドとか東宝とか値のつく株は信用取引の大損の穴埋めのために売ってしまったので、残ったのは50万円や10万円で買った優待のある株が多かった訳です。そのためお米はどんどん届きました。あとは缶詰、豆腐の引換券、JCBのギフトカード、吉野家の牛丼の券などですね。
現金の配当も多少はありますから、それを家賃や公共料金の支払いに充てました。その他の生活費はほとんど0円。電車賃ももったいないから移動は自転車でしたが、それが結果的に良かったんですね。のちにTV番組の『月曜から夜ふかし』でマツコデラックスさんが「桐谷さんが自転車で走る姿がいい」と言ってくれたおかげでブレイクができたので(笑)。
35年の投資生活で学んだこと
35年の投資生活のなかで、私も最初の20年間位は値上がり益を追求していました。うまく行くと儲かるんですよ。でも1億とか1億5000万円儲かっても、また同じくらい損しちゃうんです。要は株って上がったあと必ず下がる。上がったままにはならないんです。
また、株式投資で損すると勝負欲がなくなるのか、だいたい将棋の成績も落ちて行くんです。私の場合儲け過ぎたら本業のヤル気が起きなくなるのかもしれません。やっぱりギャンブル的な投資はよくないんですね。
ただ一般的な投資法は値上がり益で儲けるか、配当で儲けるかです。株主優待というのは日本独自の制度で、配当とは別に株主にいろいろなものを贈る制度です。
株主優待は権利確定日が年に1回か2回あり、そのとき株を持っている人のところに約3ヶ月後位に届きます。種をまいて、しばらくしたら芽を出して育って、定期的な収穫が得られる。「株主優待は農業だ」と私は思っています。
本コンテンツは2019年8月3日(土)開催のマネックス20周年特別イベントの書きおこし記事です(イベントの内容を一部抜粋して掲載しています)。
出版社、テレビ局勤務等を経て、フリーランスの編集・ライターに。主なジャンルはビジネス・教育・子育て。AERA with Kids「子どものお金教育」「子育て世代の初めての投資」特集ほか、起業とお金をテーマに執筆することが多い。株主優待券好きの家庭で育ち、子どもの頃から映画鑑賞にお金を払ったことがない。