今回は令和初の「杉山智行の新興国はthis time is different?」をお届けします。
米中貿易戦争でまた相場の動きがあわただしいので、疲れてしまいますね。そんな時こそ長期、超長期のスパンで世界はどうなっていくのか、あらためて考えてみましょう。
21世紀は中国、インド(と米国)の時代?
下の図は21世紀最後の年、2100年時点の世界の名目GDPの上位国を予測したものです。
筆者はこちらの予測は若干現在の先進国が上位に居続けるというバイアスがかかっているかな、と感じますが、中国、インド、次いで米国の3ヶ国が超大国となる、という方向性は多くの方が感じているところではないでしょうか。
80年後のGDP予測というと突拍子もないものに思えるかもしれませんが、意外とそうでもないかもしれません。
たとえば100年前、1919年(第一次世界大戦が終わった頃)の人に2019年現在の世界のGDPランキングをみせても、そこに至る経路(日本が米国と戦争して敗戦したり、中国が共産党政権になったり、ドイツが東西分割されるなど)や社会を動かすドライバーとしてのテクノロジーがどういうものかは全く予測不可能だと思いますが、「おお、ついに眠れる獅子(中国)が目を覚ましたんだね」くらいの感想しかなく、それほどのサプライズはないかと思います。
現在の米中貿易戦争がどうなるのであれ、核戦争でも起きるのでなければ、80年後の各国の経済規模はだいたいこういう感じになっているのではないでしょうか。
22世紀はアフリカの時代?
次に、下の図は、同じく2100年の世界の人口の上位国の表です。
長期の人口の予測が経済統計の予測よりも精度が高いことが多いのは、ご存知の方も多いかと思います。
細かい数字にはあまり意味はないと思いますが、「だいたいこれくらいの人口になる」というところについては、あまり違和感はないのではないでしょうか。
2100年の人口ランキングには、ナイジェリア、コンゴ民主共和国、タンザニア、エチオピア、ウガンダと5つの国がトップ10にはいってきていることに気づかれたかもしれません。
ちなみに2019年現在はナイジェリアの人口が2億人弱で世界第7位、それぞれ9000万人強のコンゴ民主共和国とエチオピアが14位と16位となっています。
前出の図表1におけるデンバー大学の研究センターの予測では、21世紀の終わり時点の名目GDPランキングが、ナイジェリアが11位、エチオピアが12位、タンザニアが16位とだいたいブラジルと同じくらいの経済規模になっているのでは、と予測されています。
母国市場の規模が大きいことが、その後その国の産業が国際市場に打って出るには相当有利にはたらくことが昨今の米国、中国の新興企業の躍進で見られています(人口が多いと母国市場でスケールできるので、海外市場に打って出るための投資可能額がけた違いに大きくなりアドバンテージとなる)。
しかし、ナイジェリア、エチオピア、タンザニアのように、これらの国々もそういうアドバンテージを得ることになり、22世紀は中国、インドに次いでアフリカの時代にもなるかもしれません。
21世紀はまだアフリカの時代にならない?
デンバー大学の研究センターのGDPの予測のところで「現在の先進国がリードし続けるというバイアスを感じる」と書きました。
単純に1人当たりGDPで比較をすると、たとえばインドネシアが中国から10年遅れ程度なのに対して、インドやこれらのアフリカ諸国も中国から15年程度の遅れで高い成長率を誇っています
このため、シナリオによっては22世紀まで待たなくても、21世紀の私たちが生きている間にアフリカの時代をみることができるかもしれません。
現在のアフリカ経済は、15年前の中国と異なり、非効率な国内農業セクターがネックとなって人々の生活コストを高くしています。経済の発展ステージにしては割高な賃金でないと人々は生活ができません。
このため、採算を計算しにくく、なかなか先進国の工業セクターの企業が生産工場を進出させられずにいます。ここ数十年の中国のような、外資系企業の進出によってより高度な工業技術が現地の人々の間に広がっていくダイナミズムが残念ながらまだ見られていないのです。この点がアフリカ経済の問題点です。
アフリカの農業セクターは、生産性の改善が今後のアフリカ諸国の経済の爆発的かつ持続可能な成長の起点になるポテンシャルがあるため投資の増加も予想され、有望なセクターのひとつといわれています(念のため、こちらは今後100年の話ではなく、今後数十年間の話です!)。
筆者は残念ながら株式投資の専門家ではないため、具体的な推奨銘柄を思いつかないところが申し訳ないのですが、日ごろ日本株式や米国株式に投資を行うに際しても、こういった中期的に有望な海外の分野の成長を取り込める日本企業や米国企業の株式に投資を行ってみるのも面白いかもしれません。
コラム執筆:クラウドクレジット株式会社 代表取締役社長
杉山 智行(すぎやま ともゆき)
寄稿テーマ:「杉山智行の新興国はthis time is different?」
プロフィール:2005年東京大学法学部卒業後大和証券SMBCに入社し、金利、為替の自己勘定取引チームで日本国債への投資業務等に携わる。2008年ロイズ銀行東京支社に入行し、資金部長として支社経営陣に対してリテール預金の獲得など日本での事業機会について助言を行う一方、運用子会社の日本における代表及び運用責任者を兼任。2013年1月にクラウドクレジット株式会社を設立し、投資型クラウドファンディング・サービスを展開。日本の個人投資家と世界の資金需要者がWin/Winの関係を作るサポートを行う。