主要通貨ペアの相場レンジ(予想)

米ドル/円  108円~125円
ユーロ/円  115円~133円
ポンド/円  125円~150円

米国景気の拡大は「まだ序の口」

2019年は、言うまでもなく「米大統領選の前年」です。つまり、米国株高となる可能性が高い年ということになり、そこは「過去のデータに基づいて今後の行方を展望する」という基本に、まずは1回立ち返ったうえで熟考してみることが肝要と言えるでしょう。

ご承知のとおり、1950年以降に「米大統領選の前年」となった17回について、NYダウ平均とS&P500種の勝率というものを確認しておきますと、NYダウ平均が16勝1敗、S&P500種が15勝2敗という見事な好成績でした。

トランプ米大統領は歴代の面々とは異なり、かなり型破りなところがあることから「過去の実績・データやアノマリーなどは通用しない」といった声も聞かれます。しかし、トランプ氏が2期目を目指すと考えられていることは事実であり、むしろ“トランプ氏ならでは”と言える強烈な景気刺激策の実現に大いなる期待を抱かせるような言動が目立つこととなる可能性も高いと言えるでしょう。

周知のとおり、先に行われた中間選挙の結果によって米上下両院の多数派が異なる「ねじれ議会」となっていることから、2019年中に撃たれる“実弾”はある程度限られるかもしれません。しかし前回(2016年)の米大統領選同様、かなり派手な公約アピールを大々的に打ち出すこととなれば、米国景気は将来期待によって一段と浮揚することも十分にあり得ると考えられます。

もともと、米国景気は追加の刺激策など不要なほど、いまも強く拡大し続けています。その証左として筆者がよく持ち出すのが「米求人・労働異動調査(Job Openings and Labor Turnover Survey=JOLTS)」のデータです。有名な「米雇用統計」と同様に米労働省が毎月発表しているもので、執筆時の最新データは2018年10月のものとなります。

数あるデータのなかでも、とくに目を惹くのは米企業による「求人」の数が尋常でないほど高水準であるということです。その一方で、実際に「採用」された米労働者の数は「求人」に遠く及ばず、そこには深刻なミスマッチが生じています。

ここで言うミスマッチとは、職を求める側の労働条件(賃金や雇用形態など)に対する要求水準がみるみる高まって行くのに対して、現状、米企業側が提示している労働条件の水準が低すぎることによって生じているものです。これは足下の米労働市場が「超売り手市場」になっていることに因ります。

もちろん、俗に「人手不足倒産」という言葉もあるくらいで、米企業にとって必要な人材が確保できないことは死活問題にもつながりかねない一大事です。よって、さすがに米企業の側も徐々に賃金水準や正規雇用の比率などをアップさせてはいるのですが、そこはイタチごっこのようなもので、なかなか収まりがつきません。

加えて、昨今の米国では「自発的な離職」が急増し、そのボリュームが高止まりしていることも目につきます。その原因はお分かりのとおり、これまで勤めていた会社よりももっと高給で優遇してくれる自身の能力に見合った会社に転職したいと考える人が非常に多いからです。

そのような方が実際に転職に成功すれば、大半のケースで前職よりも賃金がアップしているものと推察されます。それも、多くの場合はかなりのアップ率となるでしょう。そして、このような転職成功事例が増えるほど、それ自体が周囲の人々にとっての動機づけとなり、ますます自発的な離職が増えるという状況にあるのです。

その結果、何が起こるのかと言えば、まずは多くの人々の胸のうちに「賃上げ期待」が芽生え、それが見る見るうちに育って行きます。立場や状況により程度の差はあれど、実際に賃上げの厚遇に恵まれた人から先にジワジワと消費マインドも高まっていくでしょう。その後、一定のタイムラグをもって徐々に米国の人々の消費行動は活発になって行く、さらに一定のタイムラグをもって物価が上がり始めるということになるはずです。

よく「米国の雇用情勢は目に見えて改善しているのに、そのわりにインフレ率が低いままであるのは謎だ」などといった声を聞くことがありますが、現実問題として「雇用の改善から物価上昇に至るまでには相当な時間を要する」ということを忘れてはなりません。足下では、米国の平均時給の伸びが前年同月比で3.1%程度の上昇となっており、だいぶ雇用改善の効果は出てきているものと思われますが、これは「まだ序の口」であると考えていいものと思われます。

中編では「米国バブルはこれから、過度に先行き悲観しないこと」、後編では「2019年は米ドル高かつ米ドル/円の上値余地も拡がりやすい」をお伝えします。