株の乱高下に揺さぶられた2018年が終わる
依然株式市場を覆う霧が晴れないが、長期上昇相場は続いている、との見方を変える必要はないのではないか。
この間の株価の意表をついた下落、著しく高いボラティリティーによりリスクテイカーは大きなダメージを受けている。だから株価回復は緩やかになるという可能性もある。
しかしテクニカルで売られたものはテクニカルで買い戻されるので、著しく早い回復があるかもしれない。日米株式共に2月と10月の2つの天井によりダブルトップが形成され、いよいよ長期上昇相場は終わったと言う人もいる。だが、1月高値より9月高値が高いこと、10~12月の安値は2~3月の安値を下回っていないことなど、ダブルトップの形状にはなっていない。
そうなってくると来年早々に堅調な相場が戻る可能性は十分にある。いよいよ長期株価上昇と戦後最長景気拡大が終るとすれば、ブームを終らせるほどのマグニチュードの要因は2つ、米中貿易戦争、および米国金融引き締めと金利上昇であろう。その2要因を検討すると、まだまだ景気悲観論は時期尚早、と判断される。
最大の不透明要因、米中覇権争いは破局に至らず
ブエノスアイレスのトランプ、習近平会談により、追加制裁、2000億ドルの対米輸出品目に対する25%への関税引き上げが90日間延期された。米国側の声明では発動猶予は中国の構造改革を条件としている。
1.米企業への技術移転の強要
2.知的財産権の保護
3.非関税障壁
4.サイバー攻撃
5.サービスと農業の市場開放
上記5分野で協議し、90日以内に結論を求めている。それまでに合意できなければ、2000億ドル分の関税は当初計画通り25%に引き上げる、というわけである。
しかしよく考えれば、この対中要求5項目はいずれも不公正行為又はWTO違反の事項であり、中国はそれが事実なら受け入れざるを得ない。身に覚えがない、濡れ衣だと主張するとしても、不公正行為の事実発覚した場合には、相応の懲罰を了承せざるを得ない。公正さを装う中国にとっては、米国の要求をほぼ全面的に受け入れ、その結果、追加関税は回避される公算が大きいのではないか。
中国最大のハイテク企業ファーウェイの最高幹部がカナダで逮捕されるなど、摩擦は際限なく激しくなっている。しかし中国半導体消費に占める中国メーカー比率は8%と著しく低く、ほぼ50%強は米国メーカー製品である。よって半導体供給の停止は中国ハイテク産業の即死を意味し、中国は米国の要求を受け入れざるを得ない。
他方米国側も半導体メーカーの売り上げの過半は対中であり、またハイテク製品(スマホ、パソコン、TV、等)の大半は中国から輸入しているので、中国と破局することはできない。つまり米国政府の対中ハイテク封じ込めは選択的にしか行えないということであり、中国はそれを受け入れざるを得ないのである。
中国国産化をアメリカが阻止するために、半導体製造装置の中国への輸出規制や、中国合弁会社への技術供与を禁止する動きは一段と強まるだろう。それを日本や欧州にも求めてくると思われ、日本政府・企業はそれに応じる模様である。
それは中国のハイテク投資の落ち込みと、景気へのマイナスの影響をもたらす。すでに中国の投資に米中貿易戦争の弊害が表れ、日本の半導体製造装置・工作機械メーカーの受注は大きく減速している。
しかし、中国は財政・金融政策を活用し景気浮揚を図りつつある。貿易摩擦のマイナス影響を政治的観点から打消さざるを得ないからである。関税の影響は限定的とIMFは試算している。
また中国は必至で景気てこ入れに注力しており、米中戦争が、米中の総需要を大きく損ない、世界リセッションの引き金を引くという可能性はなくなったとみられるのではないか。万一90日後に中国の妥協が得られず追加制裁が発動されたとしても、発動は米国経済への影響を細心の注意でチェックされた後であろう。
米金融引き締め、信用循環が暗転する可能性ほとんどない
あと1つの懸念要因、米国金利の上昇と金融政策に関しても心配はいらない。米国は利上げサイクルの終盤に近づいていることを、12月初めの講演でFRB議長パウエル氏は示唆した。
短期金利は中立金利に近づいており、あと2、3回の利上げで金融引き締めは打ち止めになる、という可能性である。
なぜなのかだが、その理由はインフレが加速しないからである。3%近い賃金上昇は続いているが、生産性の上昇により企業の価格引き上げプレッシャーは高くはない。よってなかなか2%というインフレターゲットに届かないのである。
これだけ景気が良く失業率は4%以下という完全雇用状態でなお、なぜインフレが強まらないのだろうか。「好況」「低インフレ」「低金利」という組み合わせはせはあまりにも好都合すぎて、にわかには信じがたいのであるが、パウエル議長によってこの好都合すぎる現実が当分持続し、金融引き締めの打ち止めが近いことを市場は織り込み始めた。
上がったとは言え3%ちょっとという現在の長期金利水準はアメリカの名目経済成長率6%に比べるとまだ半分、金利が景気のブレーキになるには程遠い水準である。
無視できなくなった日本企業の高収益、背後にある新たに確立されたビジネスモデル
米国の景気失速と株価下落トレンドの転換がないとすれば、日本株式に海外要因とともに国内要因がダブルの追い風となる可能性がある。世界的軟調相場の中で、今年に入ってからの日本株式のパフォーマンスは世界の中で米国に次いで良好である。
ある海外の日本株式ファンドマネージャーは「普段と違いパフォーマンスが悪いのに資金が逃げていかないことが、不幸中の幸い。うれしい驚きである。」と語っている。2019年は世界の中で日本株式人気が高まると思われる。
国内要因とは、日本企業が平成の時代に築き上げた、Only oneのビジネスモデルとそれの株価への織り込みである。
平成とは、日本が戦後の高度成長に伴うごった返しのドサクサをきれいに整理して、謙虚になり、グローバルシティズン(世界の市民)として世界から尊敬され、国民も企業も持続的な成長にふさわしい心構えを学んだ時代であったと考える。
それは平成天皇のお人柄そのものでもある。特に平成の後半はこれからの成長の土台を見事に作った期間だったと思われる。Global only one戦略が定着し日本企業の価値を作り出す能力は、平成の時代に飛躍的に高まった。
異常割安の株価是正、新元号がその号砲に
そもそも一番大切なものは、企業の稼ぐ力。それが腐っていたのが昭和の終わり、それが金ぴかなのが現在である。Japan as Only One(日本だけしかできない技術・品質)、国際分業における圧倒的優位である。
その証拠に史上最高利益率、ゴーンの時代の終わり(日産がルノーを大きく抜き去った)、スマホ世界生産拠点はー北東アジアのみ(それは日本が核にあるから)、日本観光立国飛躍期に(中国での旅行先人気トップは日本)、等々、日本の稼ぐ力の威力見せつけている、これは日本がかけがえのない国になった証である。
それにもかかわらず、日本の株式は極端な割安水準に放置されている。PBRでみてもPERでみても世界最低水準である。国内の他の資産と比較すれば預金金利、国債利回り0%に対して株式配当利回り2%、益回り8%と、ばかげたバリュエーションになっている。
家計の金融資産残高(除く年金保険準備金)を日米で比較すると米国の株・投信7割、現預金2割に対して、日本は現預金7割、株・投信2割と、好対照になっている。米国では貯蓄と言えば株を買うこと、日本は預金することなのである。デフレで貨幣価値が上昇する間はそれでよかったが、すでに日本でもデフレ脱却は明確である。
最も敏感なインフレ指標、不動産価格、賃料は明確に上昇に転じている。日本でも米国のように株式主体の資産運用にシフトしていくのは時間の問題といえる。
このように株高の条件は整っている。あとは全員が走り出せる号令が大事。天皇譲位、改元は号令になるだろう。
2019年消費税引き上げの経済への影響は限定的
懸念される消費税引き上げ率は2%と小さいうえ、軽減税率導入、子育て世帯への還付、キャッシュレス化ポイント還元、住宅自動車購入支援などにより、影響は限定的。むしろ2019年中は住宅耐久財の前倒し購入などにより景気を押し上げよう。
2020年にその反動が現れるとみられるが、企業は質の向上(高付加価値化)により値上げによる需要減退を吸収しようとするだろう。不動産価格・賃料の上昇などインフレが蔓延する中で、値上げ抵抗感は薄れていくだろう。