中国四大銀行の中では一番最後の上場となる農業銀行(1288)が7月15日に上海市場に、7月16日に香港市場に、それぞれ上場する予定です。同社のIPOは世界でも史上最大のIPOになる可能性があります。ちなみに、これまでの世界最大のIPOは同じく四大銀行の1つであり、現在は時価総額や預金量などで中国だけでなく、世界最大の銀行となった工商銀行(1398)のIPO(2006年上場)でした。このように世界最大のIPOは中国で続いています。
世界最大のIPOが続くとなると、中国株の直近の需給状況はどうなると考えられるでしょうか。中国では今回の農業銀行だけでなく、そのほかにも多数のIPOや増資が計画されています。7月2日、中国銀行(3988)は上海および香港市場で合計最大600億元の増資計画を発表しました。中国銀行は6月はじめに上海市場で約400億元の転換社債を発行したばかりです。次の増資計画が発表されたのは予想外であり、中国銀行が資金調達の必要に迫られているのではないかとの推測もあります。増資金額の大部分は大株主により出される計画ではありますが、市場関係者の心理的にはマイナスです。さらに今後も、中国政府による銀行の自己資本比率規制の厳格化に伴い、各銀行が次々と増資を実施すると予測されています。中国国務院に許可された2010年の銀行資本補充計画によると、中国工商銀行(1398)、中国建設銀行(0939)、中国銀行、中国交通銀行(3328)の合計調達価格は2870億元です。
また、2010年下半期には、米大手保険会社AIGのアジア部門AIAの香港市場への上場の計画があり、約1560億香港ドルを調達する可能性があります。そのほかに、2008年に香港市場で約156億香港ドルを調達しようとした民営造船大手の熔盛重工がIPOを再開させる計画があり、その他でもロシア電力会社 EuroSibEnergoとロシアのモリブデン製造企業SMRはそれぞれ117億香港ドルと8億香港ドルのIPO計画があります。これらの新規上場と増資によって、2010年下半期に中国本土と香港の市場で8000億香港ドルを超える資金調達が行われるとの予測もあります。これらの大型IPO計画によって、香港市場で需給悪化が拡大する恐れがあり、短期的には投資家の不安心理に繋がっています。
しかし、今回の農業銀行の上場で言えば、たしかに短期的には需給不安要因です。農業銀行ぐらい大型の銘柄になりますと機関投資家はポートフォリオに組み入れる必要性が出てくるため、既存上場株を売却して購入資金に充てようとする動きがでるからです。しかし、長期的に見ればプラスの側面もあります。というのも、これだけグローバル化が進んでいますので、農業銀行(1288)のような大型IPOの場合、アジア全域でのポートフォリオの調整が行われます。つまり、日本やその他の国の銀行株を売って、その資金で農業銀行(1288)を購入しようといったポートフォリオの調整がでてくるわけです。つまり中国に資金が集まることにつながってくるわけです。そして農業銀行(1288)が上場後に株価が上昇すれば、IPOで農業銀行(1288)を購入したいくつかの機関投資家は、利益確定して、そこで得た香港ドルで別の香港市場上場株を買うといった、資金の回転が起こってくる可能性があります。このように考えていくと、今回の需給不安で大きく下がったところは長期的に考えれば大きな投資チャンスであるようにも考えられるわけです。