英国、EU離脱(ブレグジット)交渉が難航しています。ロンドンのカーン市長が9月16日、英国のブレグジット交渉は「悪い合意か決裂」に終わる可能性が高く、離脱の是非を改めて問う国民投票を実施すべきだと訴えました。
カーン氏は最大野党・労働党の有力政治家で支援労組からも再投票を求める声が上がっている、と報じられています。こうした声は英国全体に広がっており、調査会社が7月に英国有権者1,653人を対象に実施した調査でも、最終的な合意内容について国民投票を実施することに賛成する割合が反対を上回りました。
さらに、EUからの離脱を問う国民投票をあす実施する場合どうするか、という質問に対し、全体の45%が「残留」、42%が「離脱」と回答しているのだそうです。
2016年、英国は国民投票でブレグジットを決めました。これを受けEUとイギリスの間で様々な新ルールの取り決めが必要となりました。
英国/EU間のブレグジット交渉のデッドラインは2019年3月29日ですが、実際には合意事項をイギリスとEU各国の各議会の承認を得る必要があるため、2018年10月18日開催のEU首脳会議までの条件合意が求められていました。
8月下旬、英国がEUとの合意がないままEUを離脱する場合の「実践的で釣り合いのとれた」対策を発表したことで、交渉がまとまらないままブレグジット期限を迎えるリスクが高まったことに市場は驚き、ポンドが大きく売られる局面がありました。
9月10日にはEU側の首席交渉官を務めるバルニエ氏が11月初めまでには合意可能と発言しており、安心感からポンドが買い戻されています。ブレグジット交渉のデッドラインが近づいてきたことで、通貨ポンドは乱高下しています。しかし、足下ではポンドは大底を確認して反騰し始めたように見えます。
英国の金融政策を見てみましょう。
9月13日、英国中央銀行(BOE)は金融政策委員会で政策金利を0.75%に据え置くことを発表しました。ブレグジットに対する懸念が高まっていることを理由としていますが、英国は前回8月の金融政策委員会で金利を0.25%引き上げています。
利上げしたばかりだった、ということもあって、市場にも9月利上げの予想はありませんでした。現時点で市場関係者らは「BOEはブレグジットまでは次の利上げを行わない」とみているようです。実際BOEはブレグジットに対する企業、金融市場、家計の反応は金融政策の方向性に影響するとしています。
現時点ではファンダメンタルズ(経済などの基礎的条件)よりも、政治情勢に配慮しているということですが、英国は2017年11月にリーマンショックから10年ぶりの利上げに踏み切って以降、利上げサイクルにあることを忘れてはなりません。
7月の英消費者物価指数(CPI)は、前年同月比2.5%上昇、伸び率が前月比で拡大するのは2017年11月以来8ヶ月ぶりです。昨年11月の3.1%をピークにインフレ率は低下を続けてきましたので、インフレ低下が止まったのかどうか、今週9月19日に発表される8月分のCPIには注目が集まります。現時点での市場予想は前年同月比2.4%と控えめです。2.4%を超える数字が出てくれば、ポンド買いが強まる可能性があります。
2018年5~7月の賃金上昇ペースも前年同月比2.9%と2015年5~7月以来の高い伸びを記録しており、政治リスクを抜きに考えれば、ここからポンドを売り込むのはリスクが高いと考えます。
しかしながら、ブレグジット交渉の行方が不透明なこともあって、通貨先物市場のヘッジファンドなどの投機筋のポンドの売り越しポジションは直近ピークであった8月28日の76,928枚から減少しているものの、最新の9月11日時点では61,179枚も残っています。トレンドとして、ファンドはポンドショートを買い戻しているという点を軽く見ない方がいいような気がしています。