かつて高金利通貨として人気を博していた豪ドルが、最近では新興国通貨の下落との相関性が強まっており、下落基調を強めています。

豪州の4-6月期実質GDPは前期比+0.9%と市場予想を上回りました。前年比では+3.4%と2012年7-9月期以来の高い伸びとなっています。豪州は27年連続でリセッション(景気後退=2四半期連続でGDPがマイナスとなること)に陥ることなく成長を続けています。リーマンショックがあってもリセッション入りしなかったということですが、その背景にはリーマンショック後、世界の景気をけん引してきたのが中国であったことがあります。

鉄鉱石や石炭など豪州の豊富な資源のおよそ3割が中国へ輸出されています。これはGDP国内総生産のおよそ8%にも相当します。輸入品目も中国製品が全体の18%程度に上り中国との貿易関係が豪州経済にとって大きいことが伺えます。

中国はリーマンショック後の2009~2010年に4兆元という巨額の財政出動を実施しました。当時の為替レートで57兆円にも上る規模です。これを受けて中国経済はV字回復となり、2010年には日本を抜いて世界第2位の経済大国に躍り出たのです。豪州経済がこの恩恵を受けて成長を続けてきたとも言えますね。

巨額の財政出動には過剰投資、過剰在庫などの副作用をもたらしました。シャドーバンキング問題なども警戒される中、中国はバブルを崩壊させぬよう慎重に引き締め政策に舵を切っていましたが、そこに米国トランプ政権が誕生。問題は貿易戦争へと発展しています。

米中貿易摩擦による中国経済への懸念、上海総合指数の下落、人民元安などは豪州にとってもネガティブ材料。中国株や人民元相場は規制がありなかなか取り引きしにくいのですが、外国為替市場での豪ドルは流動性も大きく、中国資産売りのプロキシー(代替)として、売り込まれてしまうという側面があるのです。

そして、足下で懸念されているのは、豪州の不動産市場。

8月29日、豪州4大銀行のひとつウェストパック銀行が住宅ローン金利の引き上げを発表しました。9月に入ると6日にANZ(オーストラリア・ニュージーランド)銀行とCBA(コモンウェルス)銀行が住宅ローン金利の引き上げを発表、たった1週間の間に4大銀行のうち3行が住宅ローン金利の引き上げに動いたのです。これは豪州銀行の資金調達コストの上昇で、利ザヤが取れなくなったことへの対処とみられます。

米国が政策金利を引き上げていることで、2018年3月以降豪州の政策金利は米国の政策金利を下回る水準になっています。かつて高金利ともてはやされた豪州は、米国よりも金利が低いのです。また、豪ドルが下落していることもあり、豪州の銀行など金融機関は基軸通貨である米ドルを調達するコストがおよそ4年ぶりの高水準にまで上昇しています。

こうした背景から、住宅ローン金利の引き上げに踏み切った豪州銀行ですが、これを受けて、ローンの借り手の金利負担が増大するため、今後の豪州住宅市場を冷やすとの懸念が出てきたほか、金利負担の増大により、消費への影響も懸念されています。貿易問題だけではなく、内需にも影響が及ぶリスクが高まったということです。

では豪州の政策金利が引き上げられる見込みはないのでしょうか。

豪州準備銀行(RBA)は2018年8月7日の金融政策会合で、22会合連続で政策金利を1.50%に据え置くことを決定しています。RBAは短期の成長見通しを上方修正した一方で、インフレ見通しを下方修正しています。

これまでRBAによる豪州政策金利の利上げ時期は、早ければ来年の第1四半期との予想もあったのですが、インフレ見通しの下方修正を受けて、年後半へと予想を変更する金融機関が増えました。しかしその後、金融機関が住宅ローン金利を引き上げたことによって、ますます利上げ時期が遅れるとの見方が台頭し始めています。住宅市場の頭打ち、消費の冷え込みがインフレをますます抑え込んでしまえば、利上げが遠のくと考えるのは自然です。これが、足下での豪ドルの一段安をもたらしているのです。

豪ドルはまだまだ下落余地が残されていると考えます。