直近1カ月の業種別株価指数の騰落率をみると、下落率トップは海運である。説明は不要だろう。米中通商摩擦激化で世界貿易が停滞するというリスクが反映された格好だ。下落率の2位と3位は鉄鋼、非鉄金属である。その背景もわかりやすい。トランプ政権が発動した鉄鋼とアルミの関税で日本が適用除外にならなかったことが悪材料視された。この他、下落率上位には機械、電機、輸送用機器といったグローバル景気敏感セクターが並んでいる。その背景は、端的に言って景気が悪いからである。
従来から「景気がいいから株が上がる」と言ってきたが、足元は「景気が悪いので株価が軟調」である。3月9日付レポートでも指摘したが、景気動向指数(一致指数)は東日本大震災があった2011年3月以来の大幅な落ち込みとなった。その大幅減を招いた主因の鉱工業生産の戻りは鈍く、2月の景気動向指数の反転も弱いものだった。1-3月では生産も2年ぶりにマイナスとなるだろう。2年ぶりの悪化という点では、今月初めに発表された日銀短観では大企業・製造業の業況判断指数(DI)が8四半期(2年)ぶりに悪化した。原材料高や人手不足が響いたものだが、無論、世界経済の先行き不透明感も企業の景況感を悪化させた要因だ。こうした景況感の悪化は国内だけのものではない。JPモルガン・グローバル製造業PMIは今年に入って3カ月連続で低下している。世界的に景況感が悪化しているのである。
JPモルガン・グローバル製造業PMI
これでは上述のグローバル景気敏感セクターには買いが入るわけがない。しかし、その一方で買われている業種もある。同期間の上昇率上位の業種は、電力・ガス、食品、小売り、サービス、陸運、薬品などいわゆる内需・ディフェンシブセクターである。為替やグローバル景気変動の影響を受けにくい業種だ。この1カ月、市場は米中の通商摩擦激化を筆頭に多くの不安材料に翻弄されてきたが、世界情勢の先行きが不透明なら不透明なりに相場の対処の仕方がある。景気が悪いなら内需・ディフェンシブの買い。まさに教科書通りの反応である。
2月15日のストラテジーレポート「2018年版 疾風に勁草を知る」で、<どこから見ても間違いなく本物の「勁草」である>と評した資生堂は一本調子の上昇で連日の高値更新である。
内需・ディフェンシブの堅調さとは違う意味で、「不景気の株高」という言葉がある。景気が悪化すれば景気対策が打たれる。金融政策が緩和的になる。金融相場とは、ほとんどすべてが「不景気の株高」とニアリーイコールである。
まさに今日4月9日、黒田東彦日銀総裁が再任され、黒田日銀の2期目が始まる。景気が悪いから日銀が追加緩和をする?そんな観測は微塵もない。現在のところ可能性は0%だろう。しかし、ついこの前まで、僕が呆れていた根拠のない「出口論」も現在はまったく鳴りを潜めているではないか。さすがにこれだけ景況感が - しかも世界的に - 悪化してくると出口云々もトーンダウンする。不景気が出口論を抑制するという構図は、「不景気の株高」で金融が緩和的になるのと同じ効果がある。特に現在のように日銀の採れる手段が限られている場合は、そして市場が勝手に緩和縮小を唱えていただけに、効果は絶大であろう。
その証拠に米国金利はむしろ低下傾向なのにドル円はしっかりしている。一時は薄れていた為替と株の連動性も再び戻ってきた。日経平均は3月下旬にボトムを打ってこの2週間は戻り歩調だ。この2週間に限って言えば、確かに「不景気の株高」であろう。
米ドル円と日経平均の推移