P= B + ∑(RI/CoE) 企業価値評価モデルは、配当割引モデル(DDM)やキャッシュフロー割引モデルなどをはじめいくつかあるが、クリーン・サープラス関係(期末株主資本=期首株主 資本-配当+利益)を前提として導出される残余利益モデルが近年実務的に広く普及している。残余利益モデルの考え方を文字で書けば以下の通りである。

株主資本の価値 =株主資本の簿価+将来の残余利益の割引現在価値合計

残余利益(residual income)とは、株主資本が稼ぎ出す利益のうち株式資本コストを上回る部分を言う。将来にわたる残余利益の流列を資本コストで現在価値に割り引いたものの合計が、簿価の株主資本に付加されて企業価値を創りだす。

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株式資本コスト(CoE)と株主資本利益率(ROE)との差(エクィティスプレッド)が残余利益を生む源泉である。Pは企業価値(あるいはそれを表す時価総額)、Bは自己資本で、1株当たりに換算すればPは株価となる。

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残余利益モデルの式からも明示的なように、将来の残余利益の割引現在価値合計がPBR1倍を上回る部分、すなわち市場が評価するプレミアムである。資本コストを上回るROEをあげてこそ企業価値が向上する。逆に、資本コストをまかなえない利益率の企業は企業価値を毀損する。PBRが1倍を下回る企業は解散して資産を売り払っておカネを株主に返した方がいいと言われるのは、まさに資本コストを下回るROEでは上の式の第2項がマイナスになる状況を示している。

資本コストが重要

日経平均のROEは前回のPART2で書いた通り9~10%が見えきた。資本コストはどのくらいだろう。経済産業省が主導した「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクトの最終報告書、いわゆる伊藤レポートの中に、柳良平氏(エーザイ常務執行役CFO・東洋大学客員教授)の調査結果が記載されている。

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平均は国内機関投資家が6.3%、海外機関投資家が7.2%だが、5~8%で全体の75~80%を占める。この調査は2012年のものだから、それから5年が経過した現在の資本コストは一段と低下していると考えられる。中核的な資本コストのレンジの上限は8%では高過ぎ、せいぜい7%ではないかと思われる。

経済学の原理では希少なものの価値は上昇し、希少でないものの価値は低下する。タイラー・コーエンは『大格差(AVERAGE IS OVER)』のなかで、希少なものの例として
1. よい土地と天然資源
2. 知的財産(どういう商品を作るべきかという優れたアイデア)
3. 特殊な技能をもった優れた労働力
を挙げる一方、希少でないものとして、低技能の労働力と並んで、特別な権利をともなわない「単純な」資本を挙げている。

いまや資本が希少ではないのは多くの説明を要しないだろう。ベイン・アンド・カンパニーの推計によれば、世界の金融資本は過去30年間で3倍に増加し、世界のGDPのおよそ10倍に膨れ上がっているという。資本の増加により資本コストは歴史的な水準に低下している。同社の推計では米国企業の株式資本コストは8%であるという。

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資本コストはリスクフリー・レートにリスク・プレミアムを乗せたものと考えられるので、長期金利が2%台にある米国と依然0%金利が続く我が国とでは、その金利分を割り引くことが適切だろう。

以上から、日経平均のBPS(来期に適用される今期実績の見通し)を1万8500円、資本コストを5~7%、ROEは8~10%の幅で想定し、それぞれに対応する残余利益、その割引現在価値合計(PBR1を超過するプレミアム部分)、そしてそのプレミアムを簿価であるBPS1万8500円に上乗せした理論的企業価値(市場で評価される時価に一致すると期待される)を表にした。

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前回のレポート(日経平均3万円の根拠PART2)で仮定したROE9.7%を使い、仮に日経平均が3万円だとすると、日本株投資に求められる資本コストは5.97%と逆算できる。利益残余モデルの実務での利用は、このように資本コストの推計に使われることが多い。

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