みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。株式市場は、懸念通りに調整局面の様相を呈してきました。景況感には確たる懸念は現在のところありませんが、金利上昇観測が燻り始めていることは、株式市場にとってかなりの重石となってきています。米国の保護主義的政策への不安も再燃してきました。ここは一旦、日柄調整局面と割り切る地合いとなってきたように思えます。であれば、局面転換のカギとして、当面は金融政策や通商政策、そして安全保障政策といったマクロファクターに注目しておくことが重要になってくると考えます。
さて、今回は「5G」をテーマに採り上げたいと思います。5Gとは第5世代という意味で、ここでは次世代の無線高速通信規格を指します。当初、日本の通信各社は2020年頃の5G商用化を目指していましたが、世界では商用化の目途を2019年に早める企業が現在増えて来ました。これに併せ、日本企業もそれに追随する可能性が一気に増してきたように思えます。実はこのテーマはもう少し後で掘り下げようと思っていたのですが、導入が前倒しとなる可能性が出てきたことで急ぎ採り上げることとしました。既にその萌芽は見え始めていますが、株式市場も5Gをテーマに関連企業を物色し始めるのではないか、と想像します。
ここで少し、通信規格の世代についておさらいしておきましょう。第一世代(1G)とは1979年からのアナログ方式の通信規格でした。それが1993年に第二世代(2G)としてデジタル方式への転換が図られ、2001年には第三世代(3G)としてCDMAの普及が始まりました。3Gの導入時はまさにITバブルと重複しており、携帯電話がインターネットやメールに使用されるようになった時代でもあります。現在は3Gよりもさらに高速なデータ通信を実現した第四世代(4G)に位置づけられます。通信速度で各世代を比較すると、2Gから3Gへの世代交代で約10倍超、3Gから4Gでは約1,000倍の高速化を実現しました。5Gでは4Gからさらに100倍以上の高速化が図られる見通しです。今やIoT(モノのインターネット)やクラウドサービスが主流となりつつある中、送信されるデータ量はかつての予想を大きく上回って急拡大しています。こういった状況に対応するため、5G規格の導入は最早時間の問題となっていたのです。
当然、5Gの商用化には相当の設備投資が必要となります。一部報道では、日本だけで10兆円の投資が必要といった観測もなされているほどです。これだけの投資規模となれば、株式市場において5G関連設備を手掛ける企業が大きく注目されるのはむしろ当然と云ってよいでしょう。しかし、そういった指摘は既になされており、本コラムで改めて採り上げても面白くはありません。そこでもう少し先に目線を置いて考えてみたいと思います。
筆者は、より重要なのは5G導入によって世の中がどう変わるか、にあると思っています。5Gは単に大容量・高速化を実現するのみならず、それに伴って社会的な変化を促進する可能性は高いと考えられるのです。かつての世代交代を見ても、2Gから3Gへの変化は携帯「電話」から携帯「端末」への進化を促し、それがその後のPCの成長ピッチに大きく影響を与えました。例えば、PCを持たずとも携帯だけでブログが書けるようになったように、です。また、3Gから4Gへの変化は動画の配信を一気に広げ、今やストレージやメディアの在り方を変革させつつあるように思えます。少し長い目でみれば、無線通信規格の世代交代は社会・文化を劇的に変える起爆剤の役目を果たしてきたとも位置付けられるのです。同様に、5Gへの世代交代もそういった社会の変化を生み出す可能性は高いのではないでしょうか。仮にそうであれば、5Gをテーマとした関連企業の真打は、実はそういった社会の変化に対応した新産業となるのでは、と想像しています。
現在、そういった新産業として注目されているものには、高度道路交通システムの強化とその自動運転への応用、また遠隔医療システムなどが既に挙げられています。もちろん、そういった分野への実用化には大きく期待したいところですが、「現在、思いもつかないような使用法」が今後どんどん生まれてくることへの期待はそれ以上と云えるでしょう。過去、現在のようなスマホの使い方を誰も予想できなかったように(一部の先駆者達は確実にその未来を予想していたのでしょうが)、5G時代でも全く新しいサービスが生じている可能性は極めて高いと考えます。現在、価格の乱高下に注目が集まりがちな仮想通貨を支えているブロックチェーン技術などは、仮想通貨以外の用途開発を含めて、むしろ5G環境下でこそようやくその真価が発揮できるのでは、と筆者は考えています。
コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)
日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。