みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。株式市場は、予想以上に調整色を増した展開となってきました。筆者は強気相場の潮目はまだ変わっていないとのスタンスを維持したいと思っていますが、今回の調整にはちょっと時間がかかるかもしれないと感じ始めています。特に、急落後でもしっかりと切り返してきた米国市場とは対照的に、日本市場は非常にぐずついた展開にあると云わざるを得ません。企業業績などはまだ好調なものの、株式市場は実体経済に先行する傾向を考えると、状況はあまり楽観できないように思えるのです。朝鮮半島情勢についても、俄かに平昌五輪後の状況に不透明感が増してきたように感じています。

さて、今回のテーマは「定年」を採り上げてみましょう。人手不足が深刻化する中、様々な企業でシニア層を活用するべく定年を延長する動きが出て来ています。定年後の再雇用に関しても、人材確保、モチベーション維持のために給与水準を引き上げるケースも増えてきているようです。人生100年時代となり、定年と云われる年齢に至っても心身ともに元気なシニアは少なくありません。こういったシニア層と人手不足に苛まれる企業で、相互のメリットが一致した結果と云えるでしょう。まだまだ働ける人がバリバリ働ける機会を得ることは、人的能力がボトルネックとなっていた企業の生産性向上に寄与するうえ、延いては個人消費の拡大にも繋がり、日本経済にとっても悪い話ではありません。今後、定年延長、定年後再雇用の給与水準引上げといったニュースが増加してくれば、株式市場への追い風となる可能性は高いと云えるでしょう。

ただし、この動きは「時間稼ぎ」という一面がある点も、筆者は指摘しておきたいと思います。如何に定年を延長したとしても、その人材があとさらに20年働けるかと云えば、かなり疑問です。そもそも、企業が人材を長期的に確保したいと考えれば、より若年層を雇用した方が効率的であることは明らかでしょう。しかし、今は人手不足であり、それを埋めるための省人化機械の導入などには時間がかかります。そう考えれば、シニア層の活用はそういった省人化体制が整うまでの応急措置でもあるのです。換言すれば、シニアの活用で人手不足を解消・緩和するという選択は、(少子高齢化が進む限り)将来的にいつかは必ず対応しなければならない労働力不足時代への対策が遅れ、本格的な対応を先送りするということなのです。やや穿った見方となりますが、より長期的には企業の(少子化時代に対応した)体質改善が遅れてしまうという諸刃の剣でもある、と位置付けるのです。シニアの活用は、もちろん日本経済にとっても株式市場にとってもまずは好材料と考えますが、定年延長を図る企業ほど、そのシニアがいなくなった後への布石をきちんと打てているかどうか、がその後の企業の成長余力を見極めるうえでより重要なチェックポイントになってくるものと考えます。

筆者はむしろ、定年を機に自ら独立起業を企てるシニアに注目します。子育てなどからも解放されることから、これまで培ったネットワークやノウハウを活かし、「今度は(サラリーマン生活とは異なり)自分のやりたいことをやってみよう」と考える人材は決して少なくないでしょう。個人の生き方が問われる時代を迎え、古巣の企業からの定年延長や再雇用要請を蹴ってでも、やりがいを求めて実際に挑戦してみようという層は今後増えてくると予想します。実は若い企業群というイメージの強いマザーズ市場などでも、最近は年配の方の経営する企業が上場してくる例は既に数多く出て来ています。上場を目指すシニアの起業家は、その何倍も存在していると想像します。好条件を蹴って挑戦する以上、彼らシニアは若い起業家以上に熱い意欲と情熱を持って自身の事業に取り組むことになるはずです。もちろん、理想と現実には大きな溝がありますが、それを知っているのもシニアならでは、でしょう。是非、今後は新規上場企業の経営者のバックグラウンドに注目してみてください。地に足のついた手堅い経営力という観点で、先端技術や勢いで勝る若い起業家にも引けを取らない魅力を持つ企業が多いことに気付かれるかと思います。

なお、個人的には定年というシステムに疑問を感じています。働き方改革でも提唱されている通り、本来は「同一労働同一賃金」であり、そこに年齢という概念を差し挟むべきではないのでは、と考えるのです。かつて終身雇用が前提であった時代には、定年制度が強制的に新陳代謝を進めたという側面も確かにありました。しかし、今や終身雇用も過去のモノとなりつつあります。意欲と能力であれば、年齢に関係なくポジションが与えられる社会の構築こそが、真の働き方改革ではないか、と筆者は考えています。

コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。