コーポレートガバナンスの議論の中で、投資家の視点が短期になり過ぎているという問題が最近よく議論されます。投資家、即ち株主が、自らの短期的な利益のために、企業に対して短期での利益の追求や株主への分配を増やすことを要求し過ぎると、それは企業の長期的な成長のためには必ずしも資することにならない、という論点です。これを投資家のショートターミズムの問題と云います。私はこの考え方に、必ずしも同意しませんが、今日は百歩下がって仮にこの考え方に同意する立場を取るとしましょう。

一方で、このショートターミズムの問題があるので、株式の短期売買を、例えば税率を上げるなどして、制限を掛けようという議論があります。これは、前述のように、仮にショートターミズムの考え方を採り入れるとしても、完全に間違っていると思います。企業と投資家・株主の間のショートターミズムの問題と、株式市場における短期売買の問題は、似て全く非なる論点です。もし仮に、東証での株式売買は全て反対売買までに最低一週間空けなければいけないとしたら、恐ろしく流動性は下がるでしょう。一週間でなく、一日でも一時間でも、結果は同じです。

株式市場の流動性が落ちれば、上場株式の換金性が落ち、その価値は毀損し、プレミアムが剥げ、マルチプルが落ちます。短期売買が減れば、市場全体の株式の流動性が落ち、価値が下がり、株式で資金調達する企業のコストは上がり、年金などの超長期投資家の保有株式の価値も下がります。

短期売買と株式市場の関係は、ショートターミズムと企業の関係とは、似て全く非なる関係です。ショートターミズムと短期売買、コーポレートガバナンスと市場構造・市場設計の問題は、全く違うこととして理解し、取り組んでいかねばなりません。本件についての誤解が、案外広く存在しているようなので、きちんと警鐘を鳴らし、説明をしていきたいと思います。