私は法学部を卒業はしましたが、ほとんど勉強らしい勉強はしたことのない、完全なる天ぷら学生でした。2年間の専門課程に、自主留年をして3年間在籍していたのですが、その間に出席した本授業が2時間という、本当に呆れた学生でした。自主留年した4年の学年末は試験を受けなかったので、憲法など基本法の極少ない科目の試験のあった2年の学年末と、3年と、卒業を賭けた5年の学年末だけ一夜漬け的に法律の教科書や参考書を読んだだけの人間です。しかしそれでも尚、リーガル・マインドはちょっとは付いたと(勝手な思い込みかも知れませんが)思っており、またいくつか役に立つことを学んだと思っています。後者の最たる例は名誉毀損です。
「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。」(刑法230条・名誉毀損罪)
この法律が民法ではなく刑法であるところがミソです。そして「その事実の有無にかかわらず」というところもミソです。私は法学は好きになれませんでしたが、やはり人類最古の学問のひとつだけあり、人類の知恵が蓄積されてきたことを感じます。人は人前でけなされることが嫌いで、それによって生ずる憎しみの気持ちも、そもそもそのような発言等の元となった行為者側の憎しみの気持ちも、社会生活をしていく上であまりにも非生産的で、百害あって一利なしであることを、人類は覚えてきたのでしょう。だからどこの国にも大抵この法律があります。
駅前で起きることも、ネット上で起きることも、競技場で起きることも、テレビの中で起きることも、全てこの考え方が当て嵌まります。しかし表現の方法があまりにも多様になった現代において、この基本的な法律の分かりやすい再定義をしていくことも重要でしょう。「事実を摘示し」の部分が肝で、ここの定義の仕方で表現の自由との線引きが出来るでしょうか。やはり天ぷら学生だった私には理を詰め切れません。いずれにしても、枠組みを色々と考えていくべきタイミングには来ていると感じます。