東証は夜間取引を始めるでしょうか?先週の末に西室会長が個人的な意見として夜間取引に対する意欲を表明されたそうですが、コトは簡単ではないと思います。システム開発は、日中分だけでも大変な作業ですから、夜間も作るとなると、今の状況を考えるとかなりの負担ではないでしょうか。夜間に取引が分散されることによって、日中の負荷が下がるというのが目的と考えられますが、2001年1月から1営業日も休まずに夜間市場(マネックスナイター)を運営してきた当社の経験から言うと、夜間のシェアは日中の1%〜3%程度です。これは当社のナイターが限定的な市場であることが理由とも考えられますが、より取引所外市場が発達しているアメリカに於いても、確か5%に満たないシェアであったと思います。夜間市場を設営することは、このように表面上のメリットが実際にはあまり大きくない中で、その運用に伴うコストは厖大になりかねません。システム開発に限らず、売買審査の体制を整えるためのコストと、それがしっかりできなかった場合のリスクがあります。
取引所に限らず、各証券会社に於ける売買審査の体制の問題もあります。自画自賛で恐縮ですが、マネックスナイターの場合は、基本的に終値から取引価格が動きませんので、審査体制の問題が大幅に小さくできるメリットがあります。しかし夜間市場の最大の問題は、誰が参加者となるかです。日中の取引所においては、ディーラーと機関投資家、プロが多数参加し、プロの取引の中で値段が形成されていき、個人投資家はその中に混じって取引をしています。これは、以前にもつぶやいたことがありますが、築地の場内で、仲卸とプロの料理人・買出人との間で値段が決まっている中に一般の消費者が混じって、同じ値段で魚を買うのに似ています。或る種類の中でいいモノを選ぶのも、これから人気が出てくる或る種類を選ぶのも、一般消費者は自由に出来ますが、値段は基本的に決められています。しかしそれは、個人だけ騙されている値段ではなく、プロもみんなが買っている値段です。
築地場内では基本的に「値引き」はありませんから、価格の透明性が保たれています。夜に築地で店を開いても、プロの買出人は来ないでしょう。そこに個人が買いに行くと、プロ中のプロの仲卸と、アマの個人の一騎打ちになります。これは危険です。値段に関する情報と知識の量に差がありすぎます。ですから夜間取引をする場合には、機関投資家のようなプロを参加させるか(しかしこれは現実問題として難しいでしょう)、或いは逆にプロのディーラーを排除して場を作る必要があります。それがマネックスナイターです(特別売買は証券会社が参加していますが、一旦オファーを入れると場が閉まるまで一切増額・減額・キャンセルは出来ないルールになっており、情報格差の問題を解決しています)。しかしマネックスナイターの方式では、どうしても流動性に限界があります。するとシステム開発や売買審査体制を整えるだけの経済的意味がなくなってしまうでしょう。