皆さん御存知のように日本の銀行は預金保険機構に保険料を払うことによって、万が一倒産した場合であっても預金が全額保護されるような仕組みとなっています。ペイオフ解禁となるとこの仕組みが若干変わってくる訳ですが、果たして今の仕組みのコストは如何ほどなものでしょう。
日本格付研究所のHPによると、日本の銀行の格付けは概ねA格程度であり、またA格の企業の倒産確率は1年以内で0.21%とあります。一方、企業が倒産した場合に債権者が回収できる金額の債権額に対する割合を回収率といいますが、世界の平均回収率は49%であるのに対して、日本に於いては倒産、整理、再生のプロセスが複雑で遅いために世界平均よりもかなり低いことが知られています。仮に世界平均だとしても、日本の銀行に対する債権(預金は正にこれにあたります)のロスの期待値、即ち保険料の理論値は、
0.21%X(100%−49%)=0.1071%
となります。そう考えると今の預金保険料率、0.08%もしくは0.094%というのは、概ね正しい数値ということになります。しかしそれは倒産確率と回収率の仮定が正しいとしてです。一度欧米の保険会社からでも、預金保険機構が出しているのと同じ保険を部分的に買ってみてはどうでしょう?そうすると市場価値、即ち倒産確率や回収率に対する客観的な市場の判断が分かります。大きくずれていると、それもまた見えないコストの顕在化としていずれ納税者に降りかかってきますから、政府のディスクロージャーの一環として一度試験的にやってみたらどうでしょうか。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。