介入条件その1=米ドル/円が5年MAを2割以上上回る
日本の通貨当局は、2022年9~10月、2024年4、5、7月に米ドル売り・円買い介入を行った。これらの為替介入から、通貨当局が介入すると判断したいくつかの目安について考えてみる(図表1参照)。
2022年に最初の米ドル売り・円買い介入が行われたのは9月で145円程度、2024年の最初の介入は4月で160円程度と見られた。この2回の介入が行われた水準は、米ドル/円の過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)を2割以上上回っていた(図表2参照)。以上からすると、米ドル売り介入を行うことを判断する目安の1つに、米ドル/円が5年MAを2割以上上回るということがあったと考えられる。
では足下の状況はどうか。11月19日の終値157円は、5年MAの136円を15%上回るものだった。5年MAを2割以上上回るのが米ドル売り介入を行う目安の1つなら、まだその条件をクリアしていないということになる。なお136円の5年MAを2割上回るのは、163円以上の水準という計算になる。
介入条件その2=前回介入局面の米ドル高値を上回る
2022~2024年において、多くの予想に反して米ドル売り介入が行われなかった代表的な例が2つあった。1つは2023年11月にかけて、前年に続いて151円まで米ドル高・円安になったにもかかわらず米ドル売り介入は実施されなかった。
このケースで米ドル/円は5年MAを2割以上上回っていたが、前回の介入局面に記録した米ドル高値を更新することなく反落に転じた。その意味では介入判断のもう1つの目安として、前回の介入局面の米ドル高値更新ということもあったのかもしれない。今回の場合なら、前回の介入局面の米ドル高値とは、2024年7月の161円ということになるだろう。
介入条件その3=米ドル/円が120日MAを5%以上上回る
2024年に入り米ドル高・円安が再燃すると、それまでの米ドル高値の151円台を更新したら米ドル売り介入が行われるとの見方が多かったものの、結果的に介入は160円まで実現しなかった。
もちろんそれまでの高値を更新し152円以上に米ドル/円が上昇したところで、「5年MAを2割以上上回る」、「前回介入局面の高値を更新する」という2つの条件はクリアしていた。それにもかかわらず、なぜ米ドル売り介入は160円まで実現しなかったのか。
この局面において、152円以上に米ドル/円が上昇したところでも、120日MAからのかい離率は3%程度の拡大にとどまっていた。そして介入が行われた160円まで米ドル/円が上昇したところで同かい離率は5%以上に拡大していた(図表3参照)。以上からすると、これまで見てきた介入判断の目安に加え、120日MAを5%以上上回るという3つ目の目安もあったのではないか。
「ボラティリティ」は短期と中長期で別々の目安あり?=介入判断
興味深いのは2024年5月初めに行われた介入で、米ドル/円が一時151円台まで急落すると、同かい離率は一時2%以下に縮小し、その後はしばらく5%未満での推移が続き、介入は見送られたものの、6月末に同かい離率が再び5%以上に拡大すると、当時の介入責任者である財務省の神田財務官は介入再開を強く示唆する発言を行い、実際にそれから間もなく介入が再開したということである。
当時の一般的な見方は、イエレン米財務長官による「介入はまれであるべき」という発言に、日本の介入をけん制する意味があり、これを受けて日本は介入ができなくなっているというものだったが、実際にはこの「3つ目の条件」未達の影響があったのではないか。念のため確認すると、2022年に行われた介入も、これまで見てきた3つの条件をすべてクリアしていた。
通貨当局は、介入判断について、「水準ではなくボラティリティ(値動き)に注目している」と説明する。この「ボラティリティ」には、中長期の変動と短期の変動で別の目安があり、前者が5年MA、後者が120日MAとのそれぞれの関係が参考になるのではないか。
日米ともに、2024年まで介入が行われた頃から政権が交代、介入判断の目安も変わった可能性もあるだろうが、以上見てきた「3つの条件」を前提にした場合、当面における米ドル売り・円買い介入の実施は米ドル高・円安が163円以上に達した場合ということになるのではないか。
