運賃値上げの背景にある国の制度改正
JR旅客各社が運賃の値上げを機に、積極的な設備投資に動き出している。九州旅客鉄道(JR九州)(9142)は2025年4月から運賃の値上げを実施し、東日本旅客鉄道(JR東日本)(9020)は2026年3月に値上げを行うことを発表している。特に東日本の全面的な運賃改定は、消費増税に伴う値上げを除くと、1987年の国鉄民営化以降で初めてとなる。
各社の値上げが相次ぐ背景には、国による制度の改正がある。これまで鉄道の運賃は減価償却費や人件費などのコストに、適正な利潤を上乗せした「総括原価方式」で決められてきた。この算式ではごく一定の範囲でしか値上げができない上、災害対策などを加味するのが困難だった。国土交通省は2024年4月に原価の算定方法を見直し、耐震化などの設備投資や、人材確保のための賃金改善など幅広いコストを運賃に反映しやすくしている。
報道によると、鉄道事業者が抱えるトンネルの4割弱、橋の8割が耐用年数を超えているという。JRは旧国鉄時代から引き継いだ鉄道インフラが多い。老朽化対策が急がれるほか、毎年のように豪雨災害も発生することでその対応も必要になっている。
災害対策、ホームドア、老朽化した車両の更新など、安全のための設備投資
JR東日本では運賃改定の資料の中で、老朽化した車両・設備の更新、激甚化する災害やカーボンニュートラルなどに対応する設備投資などに充当する方針を示している。一方、東海旅客鉄道(JR東海)(9022)は2024年4月にバリアフリー設備の導入を目的とした名古屋地域での一部値上げを実施したが、運賃本体の値上げは当面見送ると報じられている。東海道新幹線というドル箱を抱えていることが要因とみられるが、設備投資には前向きだ。
東日本が公表している「グループ安全計画2028」では期間内の安全投資は約1.3兆円を見込んでいる。具体的には列車衝突防止対策、ホームドア整備、地震・豪雨対策、車両の設備強化などを挙げている。一方、積極的な投資としては「羽田空港アクセス線(仮称)」で、概算工事費2800億円を投じ、2031年度の開業を目指している。
JR東海は3月に2025年の設備投資額を7350億円(うちリニア中央新幹線3500億円)と発表している。リニア以外では地震対策や東海道新幹線の大規模改修工事、在来線での稼働柵設置工事などを進める。なお、西日本旅客鉄道(JR西日本)(9021)は今年度の設備投資3845億円を計画している。安全投資を着実に進めるとともに資源配分を見直すとしている。
これとは別に、国土交通省が「ホームドア」を2030年度までに全国4000ヶ所に増やす新たな目標を設けることになったと報じられている。高齢者などの転落や接触が後を絶たないことが要因で、補助金などで支援するという。2025年度の目標3000ヶ所からさらに上乗せする。
JR各社の設備投資拡大、関連銘柄7選
JR各社の設備投資拡大で恩恵のありそうな銘柄をピックアップする。
ナブテスコ(6268)
新幹線の基幹部品であるブレーキ・ドアの開発を手掛ける。N700系新幹線のドア開閉装置は全て同社製。高い技術を背景に在来線、新交通システムでも採用されている。国内のブレーキシステムのシェアは5割と推定される。ホームドアは日本のほか、欧州などでも展開。

日本信号(6741)
鉄道設備をはじめ、駅務機器、駅周辺設備までをトータルに遠隔で監視するシステムを手掛け、列車の安全・安定運行に貢献。踏切障害物検査装置、斜面崩落予測システムなどにも展開。一般的な可動式ホームドアのほか、上下に動く昇降式のホームドアも扱う。車両接触や転落防止などのホームセンシングシステムも。

京三製作所(6742)
列車の追突や脱線を防止するため、自動的に列車の速度を制御または停止させる自動列車制御装置(ATC)に強い。運行状況を監視し、ダイヤにより自動的に信号・進路制御を行う運行管理システムなども手掛ける。可動式ホームドア、導入コストを抑えた軽量可動式ホームドアも展開。

日本電設工業(1950)
JR東日本が筆頭株主。電車に電気を供給する架線を張る電車線工事、鉄道会社の電力ネットワーク基盤となる発変電工事など幅広く手掛けている。羽田空港アクセス線の支障移転工事(既存の設備を別の場所に移動する工事)のほか、新幹線架線老朽化・高速化取替、新幹線電化柱耐震補強工事などの工事を受注している。

鉄建建設(1815)
鉄道建設、鉄道土木合計の売上比率が約4割。鉄道下の地下で構造物を施工する特殊工法などに強みがある。レールの維持補修なども手掛ける。JR東日本の持ち分法適用会社だがJR東海関連の大型工事などでも実績がある。配当利回り高水準。

東鉄工業(1835)
線路の維持補修など鉄道工事に強い中堅建設。筆頭株主がJR東日本で、同社向けの工事比率が高い。線路メンテナンス事業で国内首位。北陸新幹線などでの軌道新設工事、高輪ゲートウェイ新駅などでの路線切換工事にも実績。駅舎など周辺施設建設も手掛ける。

日本車輌製造(7102)
鉄道車両の大手メーカーで、JR東海の子会社。新幹線や在来車両のほか、橋梁など鉄構、くい打ち機などの建設機械、鉄道事業者向け機械設備なども手掛けている。リニア車両の開発も行う。名古屋鉄道(9048)の全車両を製造などJR以外の取引先も多い。
