変わらなかった円安反転パターン=実質実効レート
日銀が公表している円の総合力を示す実質実効レートは、4月に75.8となり、2023年5月以来の水準まで上昇した(図表1参照)。これは、対米ドルだけでなく総合的に円安が是正されてきたことを示している。

この実質実効レートは、これまで過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)を2割程度下回ったところで下落(円安)が一巡するパターンが続いてきたが、今回も変わらなかった可能性が高まってきた(図表2参照)。今回の円安は、米ドル/円が一時161円と1986年以来の水準まで下落したことなどから、日本経済の衰退化や国威低下を反映した「構造的円安」との見方も広がったが、実質実効レートと5年MAとの関係で見ると、1990年代から大きく変わったことはなさそうだ。

顕著な変化が続く円高の反転=構造変化の影響か
実質実効レートと5年MAとの関係で大きく変わってきたのは上昇(円高)局面だろう。1990年代までは、実質実効レートが大きく上昇すると5年MAを3割前後と大きく上回った。ところがこの10年は、実質実効レートが上昇しても5年MAを1割も上回らなかった。以上を踏まえると、貿易・サービス収支の赤字化など日本経済の衰退化の円相場への影響は、急に円安が止まらなくなるということではなく、30~40年という長い時間をかけて円高になりにくくなっているということになるのではないか。
こうしたことは、米ドル/円についてもほぼ同様に指摘できそうだ。米ドル/円には、5年MAを3割程度上回ると上昇(円安)が一巡するパターンが続いてきたが、それは今回も変わらなかった可能性が高くなってきた(図表3参照)。

その一方で、米ドル/円の下落(円高)局面では、1980年代は5年MAを4割以上も下回ったものの、1990年代にはそれが3割程度に、そして2000年以降は2割程度と徐々に5年MAを下回る程度が小幅化してきた。
以上のことから、日本経済の変化が為替相場へもたらした変化とは、実質実効レートという円の総合力で見ても、米ドル/円で見ても、急に円安が止まらなくなるということではなく、やはり長い時間をかけて円高になりにくくなっているということになるのではないか。
円高はもう限界に近いのか=5年MAとの関係に注目
米ドル/円やクロス円が軒並みこの間の円安ピークとなった2024年7月、マイナス20%以上に拡大していた実質実効レートの5年MAかい離率は、2025年4月にはマイナス6%まで縮小した。また、2022~2024年に何度も30%前後まで拡大した米ドル/円の5年MAかい離率も、2025年4月には9%割れ寸前まで縮小した。これは、円は総合力で見ても対米ドルでも、「行き過ぎた円安」の是正が最近にかけて着実に進んできたという意味になるだろう。
その一方で、これまで見てきたように長い時間の中で円高になりにくくなるといった変化が起こってきた可能性が高い。そうであれば、実質実効レートがもはや過去5年の平均値である5年MAを回復できず、米ドル/円なら5年MAを下回るまでに至らず円高が終わるほど、日本経済衰退化の影響が急ピッチで進行しているということがあるのかが、当面の焦点になるだろう。
円相場への影響は、日本経済がもたらすだけではなく米国など海外経済からももたらされる。ここに来て、トランプ政権の政策への不信感などに伴う米ドルの信認低下や、米景気減速という米ドル下落リスクも浮上してきた。そうした中で、円の実質実効レートもさすがに5年MAを回復するまで上昇する(円高)、また米ドル/円は5年MAを割れるまで下落する(円高)なら、さらなる円高余地が残っているということになるだろう。