ウォール街の英雄や、伝説のトレーダーの話は何度か書きましたが、私の出身母体であるゴールドマンの英雄の話は今まで書きませんでした(ブラック博士の思い出を除いては)。今日は、ゴールドマンの仲間内でオットー(皇帝)というコードネームで呼んでいた人のことを書きたいと思います。彼はオランダ人で、かなりきつい訛のある英語を話しました。元々トレーダーですが、私が知っている時は既に極めて高い要職にあり、ビジネスや組織を凄い手腕でマネージしていました。マネージメントの仕方にはいろいろありますが、彼のやり方はとにかく理路整然としており、そして極めて決断が速く、その実行も速くてしかも徹底していました。冷血だと感じていた人が多かったと思いますが、私は彼は会社と社員のことを誰よりも真剣に考え、その結果として一見冷血とも思える行動を取っていたのだと思っています。彼は例えると、悪天候の中の乗客を多く乗せたジェット機のパイロットのような人でした(実際に自家用ジェットの操縦もしていました)。会社が大きな苦難に即面している時に、彼はある事情で会社を辞めることになりました。私は彼の部屋に行き、乱気流の中で、エンジンも片肺になっているような中で、あなたのようなパイロットがいなくなっては墜落してしまうと訴えました。ガラス張りの部屋で、トレーディング・フロアを背にして、私だけに見せた涙をよく覚えています。