ウォール街の英雄や、伝説のトレーダーの話は何度か書きましたが、私の出身母体であるゴールドマンの英雄の話は今まで書きませんでした(ブラック博士の思い出を除いては)。今日は、ゴールドマンの仲間内でオットー(皇帝)というコードネームで呼んでいた人のことを書きたいと思います。彼はオランダ人で、かなりきつい訛のある英語を話しました。元々トレーダーですが、私が知っている時は既に極めて高い要職にあり、ビジネスや組織を凄い手腕でマネージしていました。マネージメントの仕方にはいろいろありますが、彼のやり方はとにかく理路整然としており、そして極めて決断が速く、その実行も速くてしかも徹底していました。冷血だと感じていた人が多かったと思いますが、私は彼は会社と社員のことを誰よりも真剣に考え、その結果として一見冷血とも思える行動を取っていたのだと思っています。彼は例えると、悪天候の中の乗客を多く乗せたジェット機のパイロットのような人でした(実際に自家用ジェットの操縦もしていました)。会社が大きな苦難に即面している時に、彼はある事情で会社を辞めることになりました。私は彼の部屋に行き、乱気流の中で、エンジンも片肺になっているような中で、あなたのようなパイロットがいなくなっては墜落してしまうと訴えました。ガラス張りの部屋で、トレーディング・フロアを背にして、私だけに見せた涙をよく覚えています。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。