米ドル売り介入を行う3つの「条件」
条件1:120日MAを5%以上上回る動き
米ドル/円は、この年末年始に一時158円まで上昇した。これは120日MA(移動平均線、1月3日現在149.9円)を5%以上上回った計算になる(図表1参照)。

日本の通貨当局は、2022年9月以降これまでに6回以上米ドル売り・円買いで為替市場に介入してきた。これらの介入は、基本的には米ドル/円が120日MAを5%以上上回った水準で行われた(図表2参照)。以上から考えられるのは、米ドル/円が120日MAを5%以上上回る動きについて、日本の通貨当局は「短期的に急すぎる一方的な動き」の目安としている可能性だ。

ただし、2022年以降では、2022年3~7月や2023年6~10月など、米ドル/円が120日MAを断続的に5%以上上回った中でも米ドル売り介入が行われなかった局面もあった。これについてはどう考えたら良いか。
条件2:5年MAを2割以上上回る(下回る)動き
米ドル/円の市場介入では、5年MAを2割以上上回る動き、逆に2割以上下回る動きに対して実施されることが多かったという「ルール」も確認できた(図表3参照)。米ドル/円は2022年8月までは140円を上回る動きとなっておらず、5年MAを基本的に2割以上上回るまでには至っていなかった。つまり、介入を行う絶対的な水準に達していなかったため行わなかったのが2022年3~7月のケースだったのではないか。

これに対して、2023年6~10月には、120日MAを5%以上上回り、かつ150円近くまで米ドル高・円安となった中でも米ドル売り介入は行われなかったが、それはなぜだったのか。
条件3:前回介入局面のピークに達する
それ以前、2022年9~10月の米ドル売り介入局面における米ドル高・円安のピークは151円だった。その意味では、2023年6~10月は、前回の介入局面における米ドル高・円安のピークに達してなかったことから行わなかったということではないか。
興味深い1つのエピソードを確認してみたい。2024年4月29日に160円で米ドル売り介入を行うと一時米ドル/円は151円まで急落したが、その後米イエレン財務長官が日本の介入をけん制したともとれる発言を行うと、2ヶ月近くも介入は行われなかった。ところが6月26日、介入の実質的な責任者である当時の神田財務官は、「急激な動きに対しては適切に対応する」とした上で、記者団からの質問を受けて「(最近の動きは)急激だ」と強く介入を示唆するところとなった。
この6月26日は、米ドル/円が4月末以来で120日MAを5%以上上回り、かつ前回の介入局面の米ドル高・円安のピークを越えてきたタイミングだった。するとすぐに神田財務官は介入再開を強く示唆し、そして実際に7月11日に米ドル売り介入を行った。以上のように見ると、介入を判断する上である程度の「ルール」がある可能性はやはり高いのではないか。
1月3日現在で、5年MAは129.1円なので、それを2割上回った水準は154.9円、また120日MAは149.9円なので、それを5%上回る水準は157.4円。そして前回の介入局面での米ドル高・円安のピークは161.9円だが、以上の3つの条件を全てクリアした上で介入再開となるのか、それとも2つでも条件クリアで早速介入となるか、今後の動きに注目したい。