円安阻止介入に共通した2つの目安
2022年以降の為替介入は6回以上とみられる
日本の通貨当局は、2022年以降、円安阻止の米ドル売り介入を、2022年9月22日、10月21日、24日の3回、そして2024年は4月29日と5月1日、さらに7月11日など少なくとも3回、合計6回以上行ったとみられている。これらの介入の共通点に、米ドル/円がほぼ過去半年の平均値である120日MA(移動平均線)を5~10%と大きく上回る水準で推移していたということがあった(図表1参照)。
2023年に米ドル/円が120日MAを上回っても介入が行われなかった理由
2023年は米ドル売り介入は行われなかったが、この2023年にも、6月末や7~10月にかけて断続的に米ドル/円が120日MAを5%以上上回った局面はあった。では、なぜこの局面で米ドル売り介入は行われなかったのか。
2023年に、120日MAを5%以上上回った上述の局面での米ドル/円の水準は145~150円程度で、それ以前の米ドル売り介入を行ったピークの水準(151円)を下回っていた。この米ドル売り介入のピークの水準を上回り、かつ米ドル/円が改めて120日MAを5%以上上回ったのは、2024年の4月下旬、160円まで米ドル高・円安となった局面だったが、まさにそこで米ドル売り介入は行われた(図表2参照)。
2つの目安から為替介入見送りの理由も説明できる
以上のように見ると、円安阻止の米ドル売り介入の主な目安として、
1)これまでの米ドル売り介入水準のピークを越えて米ドル高・円安になる
2)米ドル/円が120日MAを5%以上と大きく上回る
ということが参考になりそうだ。
この2つの目安は、これまでのところ2024年5月1日の米ドル売り介入からしばらく介入が見送られたことの説明にもなる。一般的には、イエレン米財務長官の「介入はまれであるべき」との発言を受けて、日本の米ドル売り介入がやりづらくなったとの理解が多いだろうが、米ドル/円が120日MAを5%以上上回らない水準で推移し、米ドル売り介入を行う目安に達しなかったからとの解釈も可能だ。
2024年6~7月に介入が行われた背景
こうした中で、約2ヶ月ぶりに円が対米ドルで安値を更新、160円を超えて米ドル高・円安が進み始めたのが6月26日だった。この日神田財務官は、「行き過ぎた動きには必要な対応をとっていく」との発言に加えて、「足元の動きは急激である。(円安の)一方向であるのは間違いない」との見方を示した。これを素直に読むと、「足下の動きは行き過ぎなので必要な対応(介入)を検討する」となるだろう。
この6月26日の米ドル/円は、これまでの米ドル売り介入のピークを越えて米ドル高・円安が進み、かつそれが120日MAを5%以上上回る動きとなっていた。これまで見てきた米ドル売り介入を行う2つの目安を満たしたこと、そして神田財務官の発言も介入示唆と受け止められたことと一致したと考えられた。
当面の米ドル売り介入の可能性は?
米ドル売り介入の主な2つの目安を参考に、当面の介入シナリオを考えてみよう。米ドル/円の120日MAは足下で152.2円。これを5%以上上回るのは160円弱という計算になる。そして前回の米ドル売り介入が行われたピークは161円程度とみられている。以上からすると、この先米ドル売り介入再開の可能性が浮上するなら、それは米ドル高・円安が161円を更新する動きとなった場合ではないか。