2030年には家族介護者の約4割がビジネスケアラーになると予測

経済産業省が2024年に作成した「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」によると、仕事をしながら家族の介護をする従業員、いわゆるビジネスケアラーの増加が見込まれており、2030年には家族を介護する833万人のうち、約4割(約318万人)がビジネスケアラーになると予測されています。

私は企業で介護と仕事を両立させるための講演会を行っていますが、企業側と従業員側、それぞれが抱える課題をうかがう中で、ある問題点が浮かび上がってきました。今回はその問題と解決策をご紹介します。

ビジネスケアラーが介護と仕事を両立させるための2つのポイント

ビジネスケアラーが介護と仕事を両立させるためには、2つのポイントがあると考えます。1つは介護のプロを頼ること、もう1つは育児・介護休業法で定められた介護休業や介護休暇を使って、介護の体制を整えることです。

1つ目の「介護のプロを頼る」については、まず親が暮らす地域を担当する地域包括支援センターへの相談から始めます。公的な介護の相談窓口で、ヘルパーやデイサービスといった介護保険サービスを利用するための手続きのサポートを無料で受けられます。

2つ目の「介護休業や介護休暇を使って、介護の体制を整える」についてですが、介護休業は対象家族1人あたり通算で93日、3回まで分割取得が可能です。介護休暇は最大で年5日、1時間単位で休みが取得できます。しかし、本来は介護と仕事を両立させる体制作りのための時間を、親の介護そのものに使ってしまう方もいます。

そうではなく、重要な会議がある月曜日の出社が必須であれば、親には日中デイサービスを利用してもらったり、朝からヘルパーさんにデイサービスの荷物の準備をしてもらったりと介護のプロの力を借りながら、介護と仕事を両立させるための体制を作ることが大切です。

こうした発信をしている企業もありますが、私が講演でこの話をすると、多くの従業員の方は初めて聞いた、知らなかったとおっしゃいます。なぜこのような反応になるのでしょう。

企業側からの介護情報の発信が従業員に伝わらないという問題点

厚生労働省が2023年に調査した「仕事と育児・介護の両立に係る現状及び課題」によると、「介護のために仕事を辞める理由となった勤務先の問題」という問いに対して、トップの回答は「勤務先に介護休業制度等の両立支援制度が整備されていなかった」(63.7%)でした。

前述した介護休業や介護休暇は、法律である育児・介護休業法に含まれているので、どの会社にも適用されます。それにも関わらず、介護離職した従業員は「勤務先には両立支援制度がなかった」と回答しているのです。一方、人事に質問すると「従業員に向けた両立支援制度の周知は行っている」と答えます。

同調査で「従業員に対する両立支援制度の周知方法」のトップの回答が、「就業規則に記載している」(84.7%)、次いで「介護を行っていることを知った場合に情報提供している」(30.2%)という結果でした。

私が講演会で両立支援制度について従業員のみなさんに質問すると、「就業規則は読んだことがない」、「就業規則に両立支援制度の記載があるとは知らなかった」と回答するケースが多くあります。これでは、従業員に向けた両立支援制度の周知が徹底されているとは言えません。

こうした調査結果を受けて、2025年4月から施行される育児・介護休業法の改正には、次の記述が追加され、義務化されます。

・介護に直面した労働者が申出をした場合に、両立支援制度等に関する情報の個別周知・意向確認
・介護に直面する前の早い段階(40歳等)の両立支援制度等に関する情報提供 
・研修や相談窓口の設置等の雇用環境の整備

この取組みが従業員に浸透すれば、介護離職者は減っていくと思われます。しかし、これだけでは不十分で、私は従業員側の意識も変えていかなければならないと思っています。

「親の介護はまだ先」ではなく自分事と捉えるためには?

情報は受け手側のアンテナがしっかり立っていて、初めて受け取ってもらえるものです。親の介護に興味や関心がない状態のまま、いくら情報を発信していても、従業員は気づきませんし、スルーされてしまうでしょう。

企業で行う講演会の参加者アンケートを見ても、特に40代以上の従業員は親の介護への不安を抱えています。しかし、業務の優先順位のほうが高く、親の介護はまだまだ先のこと、自分には関係ないと考えている従業員は多くいます。

前述した法律の改正の中に「研修」とありますが、企業と従業員とのすれ違いを減らすためには、介護の講演会を実施するのも有効ではないでしょうか。

講演会を活用して両立支援制度の周知を行ったり、私のような介護経験者の体験談から親の介護を自分事として感じてもらったり、地域包括支援センターの職員による介護保険サービスの紹介を行ったりすると良いと考えています。

可能であれば、介護と仕事を両立している従業員が講師を務めると、他の従業員の方々は親の介護をより自分事として考えるようになるでしょう。企業と従業員とのすれ違いを減らすためにも、介護の講演会を実施する企業が増えることを願っています。