日本のエネルギー基本計画、国際協調が叫ばれる中見えてくる課題と展望

お盆休みが終わり夏休みも後半です。

2024年のお盆休みは南海トラフ地震の注意報が初めて発せられたり、台風7号の関東地方への接近によって東海道新幹線が計画運休となったりと社会の緊張度が高く、いつになく落ち着かない休暇だったように思います。

そればかりでなく、お盆期間中の8月14日に、岸田文雄首相が突然、自民党総裁選に出馬しないことを表明し、事実上退陣することが明らかになりました。

政治資金規正法の改正など政治とカネをめぐる問題にケジメをつけるためだそうですが、20%台に低迷する内閣支持率の低さも一因だったようです。来たる衆院選に備えて「選挙に勝てる顔」を切望する党内の事情が突き動かした要素も大きい模様です。

岸田首相の在任中の功績と言えば、日本のエネルギー政策を前に進めたことを最初に思い至ります。東日本大震災に伴って起きた福島第一原発事故によって、停止状態に陥った日本のエネルギー政策に将来の道筋をつけた点はきちんと評価されるべきでしょう。

2024年は2年に1度行われるエネルギー基本計画の改定の年に当たります。日本の将来のエネルギービジョン、電源構成をどのように描くのか。専門家の間で審議が続けられており、年内のどこかの時点で発表されることになっています。

2022年に制定された現行の仕組みでは、温暖化ガスの排出量の多い石炭火力発電の割合を現在の30%強から、2030年には19%に引き下げる計画です。

この他にも天然ガス火力発電の構成比は2030年に20%(現在34%)、石油火力は2%(8%)、再生可能エネルギーは36~38%(22%)、原子力は20~22%(5.5%)にウエートが変更される計画です。化石燃料に由来する電源比率をいずれも大きく低下させる見通しとされています。

しかし、これは相当に野心的な計画です。野心的でむずかしい道のりなのですが、温暖化ガス削減を急ぐ国際世論の前では、かなり甘い見通しにとどまっています。日本は国際協調の役割を果たしていないとの見方が世界には多く、岸田首相の次を担う次期自民党総裁(首相)の責任は重いということになります。

環境負荷の大きな石炭火力発電を30%強にこれ以上留め置くことは、国際世論上も許されなくむずかしくなってきました。

環境負荷の小さいエネルギー源は原子力です。しかし、現存する原発を全面的に再稼働させるには幾重にも難問が待ち受けています。したがって、相対的に環境負荷の小さな天然ガスを燃料とした火力発電のウエートを高める方策が、現実的な解として最も妥当性が高いと考えられています。

生成AIを稼働させるにも電力多消費型のデータセンターが大量に必要とされ、そのために従来以上に大きな発電能力が求められています。電力中央研究所の試算によれば、2050年の電力消費は2021年と比べて最大で+37%も増加するとの見通しです。

再生可能エネルギーが主力電源となる2030年以降を待つまでもなく、クリーンで安定した電源による補完体制の確立が急がれます。天然ガスを燃やす火力発電への移行がこれまで以上に高まっている状況が訪れていると言ってよいでしょう。

そこで、今回は天然ガスに関わる銘柄群を紹介します。

再生可能エネルギーが主力電源となる2030年以降に向け、今後に期待される天然ガス関連銘柄4選

INPEX(1605)、配当利回り約4%の日本最大級の資源エネルギー企業

日本最大の資源エネルギー企業。石油公団系の「インドネシア石油」が発祥であり、2006年に帝国石油と合併した国策会社として知られる。「経済産業大臣」名義で国が筆頭株主となっている。国内外の原油と天然ガスの埋蔵可能地域を探査、掘削し、それを燃料として貯蔵・加工して日本まで運搬、川下にあたるエネルギー各社に販売する。年間生産量は日本の全エネルギー消費量の1割に達し、天然ガスばかりでなく、2030年までに10万トン/年の水素、アンモニアの供給を目指している。配当利回りは4%近い。

【図表1】INPEX(1605)の週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年8月22日時点)

ENEOSホールディングス(5020)、ガソリン販売では国内5割のシェア

日本最大の石油元売り会社。ガソリンの販売では国内5割のシェアを持つ。源流をたどれば日本石油、三菱石油、共同石油、日本鉱業、東亜燃料工業、ゼネラル石油など、日本のエネルギー企業を1社にほぼ集約した形になる。2020年に現在の社名に変更。傘下の「JX石油開発」を通じて油田、ガス田の探査、開発、掘削を行う。ベトナム、マレーシア、インドネシアに大規模な天然ガス田を保有し安定供給を担う。2023年度の販売実績は石油3、天然ガス7の割合。

【図表2】ENEOSホールディングス(5020)の週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年8月22日時点)

川崎重工業(7012)、総合重機企業として輸送用機器やエネルギーに強みを持つ

三菱重工業(7011)、IHI(7013)と並ぶ3大重機メーカーの1つ。主な事業領域は、船舶、鉄道車両の「輸送用機器」、プラント、ガスタービンの「エネルギー」、油圧機器、ロボット、土木機械の「産業用設備」、モーターサイクルの「レジャー」の4つに大別され、まさに総合重機企業として知られる。天然ガスの海上採掘現場に欠かせない浮体式洋上ガス生産・液化貯蔵設備ではメインボイラーを供給する。高温・高圧の海上設備用設備としては世界最大規模を誇り競合他社を圧倒。LNG運搬船の建造、運航でも世界トップの実績を持つ。

【図表3】川崎重工業(7012)の週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年8月22日時点)

IHI(7013)、豊洲エリア再開発の中核企業としても注目

川崎重工業(7012)と同じく3大重機メーカーの1つとして知られる。1960年に石川島重工業と播磨造船所が合併して「石川島播磨」が誕生。2007年より現在の社名となった。豊洲エリア再開発の中核企業としても注目される。世界トップグループの一角を占める航空機エンジンの技術を応用して、火力発電所用のガスタービンでも世界トップ級。LNG受入基地、LNG貯蔵タンクでも国内トップシェアを持つ。インド、カタール、メキシコ、台湾、中国でも貯蔵タンクの実績を有する。

【図表4】IHI(7013)の週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年8月22日時点)