リチウムに代わる次世代型電池、ナトリウムイオン電池のメリット
スマートフォンや電気自動車(EV)のバッテリーといえば、リチウムイオン2次電池がほぼ全てに使われている。これは、正極と負極の金属イオンが移動することで充電・放電を行う仕組みで、正極材としてリチウムが用いられる。しかし、リチウムは希少金属(レアメタル)であり、産出できるのは中国やチリなどに偏っている。安定供給が懸念され、地政学リスクが発生すれば入手が困難になる可能性がある。
ナトリウムイオン電池はリチウムの代わりにナトリウムを正極材に使用する。ナトリウムは海水をはじめ地球上に豊富にあることで、生産が安定する上、価格も安い。リチウムイオン電池では負極部材に価格が上昇している銅を使うが、ナトリウムイオン電池ではこれを価格の安いアルミニウムに置き換えられるという。電池の材料費を現行よりも3~4割抑えられるとみられる。
さらに、原理的には充電時間がリチウムイオン電池の5分の1ともされている。構造はリチウムイオン電池に似ており、電池メーカーは既存の設備をそのままナトリウムイオン電池の製造に使えることで追加投資が不要な点もメリットになる。
現行では中国が先行ながら、日本でも実用化に向けた開発が進む
ただ、実用化にはハードルがある。同じ重さで比べると貯められるエネルギーが、リチウムイオン電池に比べ見劣りする。エネルギー密度ではリチウムイオン電池の約6割にとどまる。そのため、性能を高めることがEV向けなどの実用化に向けての課題となっている。
この分野で先行するのが中国だ。世界最大の電池メーカーであるCATLは2023年4月に、同社のナトリウムイオン電池が、中国の自動車メーカー奇瑞汽車のEVに採用されたと発表している。CATLは2021年にリン酸系のリチウムイオン電池と同等のエネルギー密度を持つナトリウムイオン電池を開発したと公表していた。当時はリチウムイオン電池のセルを組み合わせたハイブリッド型と報じられており、今回の電池が純粋なナトリウムイオン電池かはまだ不明である。中国では街乗り用の短距離EV向けで、鉛電池の代替として使われるとの見方も出ている。
日本では6月に、北海道大学や東北大学などがナトリウムイオン電池の容量を約5割高めて、リチウムイオン電池並みにする技術を開発したと報じられている。航続距離の長いEVやノートパソコンなどに用途が広がる可能性がある。正極を改良し、1回の充放電で1分子あたり従来比2倍となる2個の電子が動く電池の原型を試作したことで、貯められる電力量が増えて正極の性能はリチウムイオン電池の87%に達したという。2020年代末にも実用化を目指すとしている。
リチウムなど資源の乏しい日本にとっては、ナトリウムイオン電池の普及はメリットが大きい。技術的な課題はあるものの、中長期的な展開に期待したいところだ。そこで、今回はナトリウムイオン電池に関連した注目銘柄をピックアップする。
中長期的な展開に向け、今後の開発が期待されるナトリウムイオン電池関連銘柄5選
日本電気硝子(5214)
2024年2月に全固体ナトリウムイオン2次電池のサンプル出荷を開始したと発表している。正極、負極、固体電解質の全てが「安定した酸化物」により構成され、同社独自の結晶化ガラス技術により強固に一体化した電池である。過酷な環境下(マイナス40℃~200℃)で作動し、発火や有害ガス発生のリスクもないという。年内の販売開始を予定している。
戸田工業(4100)
2次電池正極材料などを手掛ける。2024年3月に鳥取大学と酸化鉄(ナトリウムフェライト)を負極と正極に用いた革新的なナトリウムイオン電池を共同開発したと発表している。戸田工業が独自に開発した酸化鉄の一種であるナトリウムフェライトが、ナトリウムイオン電池の負極として優れた特性を示すことを発見した。
小松製作所(6301)
2024年3月にナトリウムイオンバッテリーを搭載した電動式フォームリフトのコンセプトマシンを開発し、顧客の現場で実証実験を開始すると発表した。エネルギー密度は低いものの急速充電に対応できるため、頻繁に充電することで連続稼働が可能としている。また、ランニングコストの低減が期待できるという。新しいバッテリーの性能やその特性を踏まえた最適な使用方法を検証し、量産化を目指している。
セントラル硝子(4044)
2023年3月にナトリウムイオン電池向けの電解液の量産を始めると報じられている。安定調達が可能なナトリウムを使う新型電池の商機をにらみ参入の動きが出てきたという。電解液は電池の正極と負極の金属イオンのやりとりを促す役目がある。同社はリチウムイオン電池向け電解液の国内大手。培ってきた添加剤の強みをナトリウムイオン電池でも生かす。
クラレ(3405)
リチウムイオン2次電池向けハードカーボン負極材「クラノード」を手掛けている。一般的な負極材である黒鉛と比べて入出力特性、サイクル特性、低温特性に優れ、植物を原料としているため環境負荷も低い。企業側によれば、ナトリウムイオン電池の負極材としても適している。マイナス20℃の充電などで性能が黒鉛を上回る。