半導体事業で緻密な性能を実現するCMPとは

半導体の性能が日々向上する中で、シリコンウエハを真っ平にする技術の重要性が増している。3ナノ(ナノは10億分の1)など微細化の進展で、チップ製造工程でわずかな歪みも許されなくなっていることが要因だ。また、AI半導体の登場で、後工程でも精緻な性能が求められるようになっている。

CMP(Chemical Mechanical Polishing=化学的機械研磨)は、その名の通り、研磨材の入った薬品(Chemical)と砥石で機械的(Mechanical)にウエハの表面を平らに磨く(Polishing)技術になる。半導体の製造ではシリコンウエハの製造工程の他、配線、また近年では後工程でも重要視される傾向がある。

最も重要なのはシリコンウエハの製造工程だ。半導体の母材となるシリコンウエハは多結晶シリコン(ケイ素)を1,420℃の高温で溶かし、これに種となるシリコン棒を入れて回転させながら引き上げることで、円筒状のシリコンインゴットができる。300ミリウエハなら直径30センチメートルで、これを1ミリメートル以下の円盤にスライスしたものがシリコンウエハとなるのだが、円盤はなめらかになるまで“真っ平”にしなければならない。この工程で使われるのがCMPだ。

ウエハはまず粗研磨(ラッピング)された後で、CMP装置を使うポリッシング(精密研磨)に進む。ほんのわずかなヒビや埃などを極限まで取り除いた後で、研磨材(溶液)を使って磨き上げる。
 
業界関係者によれば、仮にウエハが直径300メートルの競技場だとすると、表面の高低差は0.1ミリメートル以下となる。傷の状態を示すクリーン度(無傷度)は、ウエハを九州全土に見立てると、許容される傷の大きさは1円玉で数個分だという。そこで、極限までなめらかな鏡面にするために必要なのがCMPということになる。
 
CMPの工程で使う装置がCMP装置だ。AI(人工知能)半導体の登場で、後工程ではAI半導体に隣接する格好でHBM(広帯域メモリ)が搭載される。HBMには極薄のシリコンウエハを多層化したものが使われるため、CMP装置の重要度が増している。CMP装置は研磨パッドやCMPスラリー(砥石剤粒子の分散液)、コンディショナー(目詰まり抑制のパーツ)などから構成されている。CMPスラリーは硬さの異なる配線や絶縁材が存在する半導体表面を均一にするための研磨材である。そこで、今回はCMPに関連した注目銘柄をピックアップする。

高まるCMP装置の重要性により、今後成長が見込まれる関連銘柄6選

荏原製作所(6361)

ポンプの大手メーカー。CMP装置では世界2位で推定シェアは約3割を誇る。世界中で使用されており、企業から累計出荷台数が3,000台に到達したことが発表されている。半導体は多層構造になっており、先端品になればなるほど多層化が進み、ウエハをその分CMP装置で研磨して平坦化する必要がある。そのため、量産ラインの他、実験や研究開発用途でも使われている。なお。CMP装置は東京精密(7729)も手掛けている。

【図表1】週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年7月18日時点)

富士紡ホールディングス(3104)

総合紡績の中堅。研磨材事業が利益柱となっている。「POLYPAS(ポリパス)」ポリッシングパッドはCMPのパットとして使われる。ウエハ基板をワックスレスで保持するために開発された製品で、研磨条件に最適な保持パッドを選択することができ、最高水準の平坦性能が得られるという。

【図表2】週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年7月18日時点)

フジミインコーポレーテッド(5384)

半導体向け売上高比率の高い研磨材メーカー。シリコンウエハの超平坦加工に使われる高精度研磨材で世界シェアトップを誇る。ラッピング、ポリッシング向けのいずれも手掛けている。アナリストによればCMP向けでは世界シェア1割。電気の流れをコントロールする配線最下層分野(FEOL=微細化向け)のCMP向けは世界シェア5割強で、スラリーにも展開している。

【図表3】週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年7月18日時点)

AGC(5201)

ガラス大手。原料砥粒からスラリーまでを一貫生産できる強みを活かし、CMPプロセスに対応したスラリーや研磨ソリューションを提供している。半導体前工程・後工程など各種研磨で様々な研磨要求に応えられるスラリーの最適化を行っている。

【図表4】週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年7月18日時点)

富士フイルムホールディングス(4901)

半導体製造の後工程向けに特化したCMPスラリーを投入。多層化や配線ピッチの狭小化などの後工程技術の進展で、再配線層を平坦化するための加工が必要になる。半導体チップへの再配線は主に銅メッキで行われ、後工程用スラリーは金属部分よりもエポキシ樹脂などの絶縁材料が研磨対象になる。チップを積層化する際に平坦化需要が増加する。

【図表5】週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年7月18日時点)

扶桑化学工業(4368)

半導体シリコンウエハ研磨剤の主要原料である「超高純度コロイダルシリカ」を手掛ける。世界に先駆けて量産化し、市場への安定供給を確立したパイオニア。ナノレベルのシリカ粒子の大きさ、形、表面状態などをコントロールできる高い技術力を誇る。微細化に対応できる超高純度コロイダルシリカのサプライヤーは世界でも限られているという。

【図表6】週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年7月18日時点)