次年度予算編成の大枠
6月21日に2024年の「骨太の方針」が閣議決定されました。「閣議決定」とは、総理大臣と各大臣で構成される「内閣」の会議において決定されることです。ここで決定されたものが法案として国会に付され、国会審議を経て国の意思である法律として制定されます。
「骨太の方針」は、正式には「経済財政運営と改革の基本方針」と呼ばれます。次年度の予算編成の大枠が盛り込まれており、8月ごろから年末にかけて実施される次年度の予算編成の大枠となります。したがって「骨太の方針」はわが国の経済政策の骨格そのものと言ってもよいでしょう。
例年と同様に、2024年の「骨太の方針」もA4用紙で50ページ以上に及び、分量としてはかなりのものとなっています。重点項目として取り上げられた政策も「賃上げ促進」、「全世代型リスキリング」、「半導体投資」、「宇宙政策」、「スタートアップ」など、私たちの暮らしや日々の経済活動のほぼ全域に及んでいます。
項目を挙げるだけでもかなり広がってしまいますが、その中からいくつかピックアップして、今後の株式市場で注目されそうな銘柄をご紹介します。
半導体から地域活性化まで 関連4銘柄
ソニーグループ(6758)、半導体レーザーに期待
民生用家電メーカーから出発して音楽、映像、ゲーム、金融などコンテンツ企業に成長。デバイスにも強くC-MOS(画像センサー)は世界トップシェア。九州で台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング=TSMC=[TSM]が建設中の半導体製造工場にも出資する。「骨太の方針」では「半導体等の大規模投資の支援」に関連してデータセンターの投資が劇的に増えると予想しており、実際、すでに大幅に増えている。生成AI用のデータセンターは電力消費量が飛躍的に増え、発熱量も巨大となる。電力消費と発熱量を抑えるには今よりも容量の大きな記憶装置が必要になるとされる。
米シーゲイト・テクノロジー・ホールディングス[STX]が世界で初めて開発した30テラバイトのハードディスク駆動装置(3.5インチ)には、ソニー製の半導体レーザーが使用されている。ソニーグループの5月の事業説明会でも、この半導体レーザー事業を最重要分野の一つとして挙げる。シーゲートは2025年には4テラバイト、2027-28年には5テラバイトの製品を投入するとしており、ソニー製半導体レーザーの役割もさらに重要になると予想される。
医療・介護DXに進出 ソフトバンクグループ(9984)
日本有数の事業家、孫正義氏が社長兼会長を務める投資会社。傘下のビジョンファンドを通じて世界中のAI関連企業への投資を実行している。半導体設計では世界最高峰とされる英アーム・ホールディングス[ARM]の筆頭株主でもある。「骨太の方針」では「社会課題への対応」として「医療・介護DX」を掲げ、医療データを活用し医療のイノベーションを促進することを前面に打ち出している。
6月末に開催されたソフトバンクGの株主総会では、新規事業領域としてAIを活用して個人の遺伝子情報や医療データを解析するサービスを開始すると発表。米国の医療関連企業テンパスAI[TEM]と合弁会社「SB TEMPUS(エスビーテンパス)」を設立する。匿名化した医療データをあらゆる角度から集め、それを得意の生成AIで解析して、個々の患者に適した治療を提供する。日本では遅くとも2年後にサービスを提供する計画である。
日本精化(4362)は「曲がる太陽光電池」の材料開発
1918年に「日本樟脳株式会社」として設立された。樟脳(しょうのう)はクスノキを原料に水蒸気蒸留法によって作られる天然由来の芳香剤、防虫剤。その後は脂肪酸を中心に独自の化学領域を切り開いてきた。現在はスキンケア、ヘアケア製品などの化粧品の原材料、医薬品の原材料を製造している。コロナ禍では同社の手指消毒剤「アルボナース」を街中で目にすることができた。
「骨太の方針」では「社会課題への対応」として「再生可能エネルギーにおけるフロンティアの開拓」を掲げている。中でも力を入れているのが「曲がる太陽電池」として知られるペロブスカイト太陽電池である。ビルの壁面など従来の太陽電池では設置が困難だった場所にも設置が可能で、2030年までに大規模な発電所1基分の発電体制を構築することを目指している。
日本精化はペロブスカイト太陽電池で広く使用されている正孔輸送材「Spirokite-NS」(一般名:Spiro-MeOTAD)を製造・販売している。高品質、高い安定性を備えた新素材を開発したことにより、ペロブスカイト太陽電池の発電効率の向上に貢献している。
地域活性化で頭角 武蔵野銀行(8336)
さいたま市(大宮、浦和、与野)などを中心に埼玉県全域に店舗を有する地銀の中位行。東京への進出も積極化しており、埼玉と近接する板橋区、東村山市をはじめ、浜松町、渋谷、池袋などの都心部にも拠点を有し、貸出実績を伸ばしている。「骨太の方針」では「持続可能な経済社会」の一環として「新たな地域生活圏の形成」、および「新たな働き方・暮らし方を実装するモデル地域の創出」を掲げる。
日本の至る地域で人口減少が加速しているが、人口動態は地域ごとに異なる。人口減少への対策の一つとして、公共施設を広域にわたって集約化することや共同利用が求められる。新たな産業の育成、事業承継を通じた地域の活発化、若い世代の移住を促すまちづくり構想を進める必要がある。
そこでは地方銀行の役割が今以上に大きくなるはずである。業績好調の武蔵野銀行をひとつの例として挙げるが、山陰合同銀行(8381)、七十七銀行(8341)、八十二銀行(8359)、しずおかフィナンシャルグループ(5831)など、他の地銀にも広く目を凝らしておきたい。