◆今日はクリスマス。クリスマスは何の日か。「イエス・キリストが生まれた日」、ではない。聖書のどこにもキリストがいつ生まれたかは書かれていない。社会学者の橋爪大三郎さんが、クリスマスはもともと冬至だったらしいと日経新聞の夕刊「明日への話題」で書いておられた。ミトラ教という宗教の、冬至に死んでまた生まれる神のお祭りが人気だった。新興のキリスト教はそれにぶつけて、12月25日を「イエスの誕生日」にして祝うようになったのだという。
◆冬至は古くから世界中で祝われてきた。中国では冬至節は春節に次ぐ重要な祝日で、北方では餃子、南方では団子を食べる。日本ではご存じの通り、南瓜と柚子湯である。中東でも中国でも大昔の暦では1年の始まりは冬至だった。理由は想像に難くないだろう。冬至を境に日が長くなっていくのだ。言われてみれば冬至ほど1年の始まりにふさわし日はないように思える。
◆株式市場も日の長さに関係がある。半年のリターンを調べると10月に買って4月末に売るパターンが過去は長期的によい結果であった。10月末のハロウィーンのころに買うのがよいことから「ハロウィーン効果」として知られるアノマリーだ。「セル・イン・メイ(5月に売れ)」とセットになっている。冬至の前から夏至の前の期間は日照時間がボトムアウトしてその後伸びていく期間に当たる。
◆キリストが12月25日に生まれたのではないことの理由として、羊飼いの行動パターンが挙げられる。羊の群れが戸外で過ごすのは春から秋までで、冬は屋内にいる。ルカの福音書には、主が誕生したニュースを最初に聞いたのは野原で羊の番をしていた羊飼いたちであったと書かれている。だから冬に生まれたのではないことは確かだ。羊飼いたちは外にいたのだから。
◆羊飼いたちが屋内で過ごす期間は株は好調なのだが、春から秋は振るわない。羊飼いたちが羊の番で忙しいからであろう。羊飼いに限らず、春から秋はひとびとの活動が活発になる時期だ。株などやっている暇はないということだろう。ところが最近はこの季節性のアノマリーも崩れてきて、あまり当てはまらなくなっている。マシンによるアルゴリズム取引が増えたことが要因だろう。コンピュータには季節も日照時間も関係ないからだ。しかしAIがさらに進化し、より人間に近づいていけば、季節性のアノマリーが復活するかもしれない。そうなったとき、「市場が牧歌的になった」というのだろうか。
- 広木 隆
- マネックス証券 チーフ・ストラテジスト
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上智大学外国語学部卒。神戸大学大学院・経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)。帝京平成大学・人文社会学部経営学科教授。社会構想大学院大学・客員教授。国内銀行系投資顧問、外資系運用会社、ヘッジファンドなど様々な運用機関でファンドマネージャー等を歴任。2010年より現職。
テレビ東京「モーニングサテライト」、BSテレビ東京「NIKKEI NEWS NEXT」等のレギュラーコメンテーターを務めるなどメディアへの出演も多数。
著書:
『ストラテジストにさよならを 21世紀の株式投資論』(ゲーテビジネス新書)
『9割の負け組から脱出する投資の思考法』(ダイヤモンド社)
『勝てるROE投資術』(日本経済新聞出版社)
『ROEを超える企業価値創造』(日本経済新聞出版社)(共著)
『2021年相場の論点』(日本経済新聞出版社)
『利回り5%配当生活』(かんき出版)
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