◆着物には、「花と競わない」という暗黙の決まりがある。つまり、桜の盛りに桜の着物を着るのは野暮という。日経新聞の連載小説『愉楽にて』の一節にそうあった。『愉楽にて』は大変艶っぽい話で、朝から読むには憚られる。作者の林真理子さんは故・渡辺淳一氏の後継者といってよいだろう。確かに『失楽園』の路線を堂々継ぐものである。
◆渡辺淳一氏が日経に書くと株が上がるというジンクスがあった。日経平均がバブル崩壊後の高値を抜いて約26年ぶりの高値をつけたのは今年の重大ニュースのひとつに違いないが、その「バブル崩壊後の高値」とは1996年につけたものであり、まさに『失楽園』が日経新聞に連載されていた時期である。2000年代に入ってからの『愛の流刑地』はもっとすごい。連載開始日が最安値、連載の最終回が最高値。この小説が連載されていた期間に株価は一本調子に上がって上昇率は5割を超えた。
◆アベノミクス相場の実質1年目に当たる2013年の1月。渡辺先生が日経に帰ってきた。小説ではなく「私の履歴書」を執筆、連載されたのだ。その年、2013年の日経平均はやはり5割超も上昇し、年間上昇率歴代4位の記録となった。
◆さて、現在の『愉楽にて』だが、連載が始まったのは9月6日。今回の上昇相場の起点である。そこから足元まで続く日本株のラリーがスタートしたのだ。林真理子さんには渡辺先生の芸風のみならず相場との相性の良さも引き継いでもらいたい。
◆桜の花とは競わないが、雪の花とならよいのかもしれない。雪を花に見立てた雪華という模様がある。古くから雪の結晶は六角形であることが知られており、六花(りっか)というきれいな言葉で呼ばれることもある。着物や帯に雪の花が咲くのを見ると冬の訪れを感じる。冬至まであと10日余り。1年締め括りの時でもある。