◆<花に嵐のたとえもあるぞ/さよならだけが人生だ> 井伏鱒二の名調子で知られる漢詩「勧酒」の原文は<花発多風雨/人生足別離>。そのまま読み下せば、<花発(ひら)けば風雨多し/人生、別離足る>。花が開花するころには雨風が多くなる。詩の通りに、開花宣言後初の日曜日、昨日の東京は冷たい雨となった。

◆雨だが<花に嵐>というほどのものではなかった。嵐になれば時に雷を伴う。この時期に寒冷前線の影響で起こる雷を「春雷」と呼ぶ。意味を問われて文字通りに、「春に鳴る雷」と答えたら不合格。夏雷も秋雷も冬雷もないことを考えれば「春雷」の意味は自明だろう。冬の終わり=春の訪れを告げるサインなのである。

◆文字通り読んでも意味がじゅうぶん伝わらない言葉がある一方で、そもそも読めない・書けない・見ただけでは意味がわからない、という言葉もある。「青天の霹靂」がそのひとつ。青く晴れ渡った空に突然激しい雷鳴が轟くこと。予期しない突発的な事件が起こることの喩えとして使われる。ちなみに「晴天」とする誤用が多い。

◆年度末である。会社では人事異動、学校では卒業・入学など別れと出会い、「変化」の季節である。それまでと環境が変われば、いろいろなところに思わぬ影響が出るものだ。相場も同じである。1年前の4月1日、名実ともに新年度入りしたその日に日経平均は600円安という大暴落に見舞われた。3月期末に向けて日本株の組み入れ比率を高めていた年金の買いという「特需」が途絶えたからであった。まさに青天の霹靂である。

◆<花発多風雨/人生足別離>。開花のころには雨風が多くなり、せっかく咲いた花も散ってしまう。せっかく知り合えた人とも別れがくる。そういう詩である。開花宣言が出た途端、真冬に逆戻りしたような寒い雨となった。花には酷と思うかもしれないが、しかし、桜は雨風では散らない。散るべき時期が来ると自然に散るのである。人も相場も同じである。すなわち、「その時」が来るまでは、どんな風雪にも耐え得る。しかし、「その時」になれば、散るものは散り、別れるものは別れ、そして崩れるものは崩れるのである。

春雷や胸の上なる夜の厚み (細見綾子)