◆新しいNHK朝の連続テレビ小説「まれ」が始まったが、どうにもこうにも、主人公・希(まれ)に共感できないでいる。これまでは「ゲゲゲの女房」の松下 奈緒、「梅ちゃん先生」の堀北真希、「花子とアン」の吉高由里子など朝ドラのヒロインはみんな大好きだったのに。え?きれいな女優さんが好きなだけだろ うって?その通りです。いや、ここで言いたいのはそういうことではない。主人公・希が、「夢なんか大嫌い。地道にコツコツ」と語るところが嫌なのだ。嫌悪 しているわけではない。子供らしさがなくて悲しいではないかと思うのである。
◆しかしそれは希のせいではない。一発当ててやろうと夢ばかり追い求める父親のせいで一家は自己破産。夜逃げ同然で能登の小さな漁村に越してきた。先日 も、子が親を選べない悲劇について書いたけれど、希だって好き好んで夢が嫌いになったわけじゃない。普通の家庭に生まれていれば、普通の女の子のようにア イドル歌手になりたいとかバレリーナになりたいと夢見ていたはずであろう。そこが悲しい理由である。
◆僕自身、「夢など見るな」と書いたことがある。『ストラテジストにさよならを 21世紀の株式投資論』(幻冬舎ゲーテビジネス新書)の最終章である。 <資産運用においては現実主義に徹することが何より大切である。「株で何億円儲けた」「資産を何倍にした」といった類の話は聞き流す。人生に夢がないので はない。自分の日常でとてつもない夢を見ればいい。しかし、株式投資では、夢など見ないのである。>
◆証券会社の営業マンはかつて、夢を売って稼いでいた。80年代バブルの頃、東京のウォーターフロントの開発が進み、地価が何倍、何十倍になるといって、 そこに土地を持つ企業の株を片っ端から推奨していた。ITバブルのときも、インターネットで世の中は劇的に変わると囃し立てた。確かにインターネットで世 界は変わった。しかし、それが企業の利益にどう直結するか具体的な絵も描けないうちから株価はバブルに踊り、そして崩壊した。夢の先食いであったのだ。
◆主人公・希に罪がないのと同じで「夢」が悪いわけじゃない。「夢」に踊って、真っ当な道を踏み外すことが悪いのである。夢や目標を持つことは悪いことで はない。それを実現するには、地道な努力やひたむきさ、謙虚であることが必要なのである。新しい朝ドラ「まれ」は、夢が嫌いで堅実一筋だった女の子が、本 来の自分の夢を取り戻し、その夢を追っていく物語。やっぱり、応援したくなる。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆