◆日経新聞電子版のマネー欄に「わたしの投資論」という企画がある。学者やタレントなど幅広いひとに投資についての考え方や投資経験などを尋ねるも ので、先週掲載された第30回では僕の「投資論」を取り上げていただいた。いまなら電子版の有料会員でなくても、誰でも無料で読めるので、ぜひこちらからお読みください。

◆そのなかで「得るは捨てるなり」ということに触れている。何かを得るには何かを捨てなければならない。「何かを選ぶ」ということは、同時に「選ば ない何か」があるということである。株式投資においては「銘柄選択」というように、選ぶことばかりに重点が置かれがちだが、本当は「取捨選択」、何を捨て て何を取るかという意識が実は大切なのである。

◆粉飾決算は明らかに違法だが、そこまでいかなくても、上場直後の業績下方修正や海外子会社の不正取引など、「それでも上場企業か?」と思われるよ うな不祥事が後を絶たない。日本の株式市場はNYSE(ニューヨーク証券取引所)と比べて時価総額は4分の1だが、上場銘柄数は4割も多い。市場というも のはみなそうだが、特に日本は玉石混交なマーケットなのだ。だから、ババをつかまないようにしなければならないのである。

◆「得るは捨てるなり」はなにも投資に限ったことだけではない。われわれは日々の生活のなかで常に取捨選択に迫られている。意識するかしないかは別 として、日々刻々と「得るは捨てるなり」の意思決定をしているのである。電車で行くかタクシーを使うか。お昼にパスタを食べるか蕎麦にするか。映画はアク ションものか恋愛ドラマか。何回でもやり直しがきく取捨選択もあれば、そうでない選択もある。

◆この春、新しい道を歩き始めるひとも多くいるだろう。進学、就職、そして第二の人生。いずれにせよ最後は自分自身で選んだ道である。選んだことを 後悔しないでほしい。「わたしの投資論」のインタビューで、「もしこの仕事を選んでいなかったら何をしていたでしょう?」と訊かれた。その質問には直接答 えずに、こんなふうにはぐらかした。

<得るは捨てるなり、ですから、この仕事を選んだことで選ばなかった人生もあるはずですが、引退したら打ち込みたいものがあるかというと、特にないんです。死ぬまでマーケットを分析して、情報を発信していくだろうなと思っています。>

さきほど、自分で決めた選択を後悔しないで、と述べたけれど、僕自身は後悔の連続である。悔やんでも、悔やんでも、悔やみきれない。そういう想いをずっと死ぬまで胸に抱いて生きていくのが人生であると思う。

小瑠璃飛ぶ 選ばなかつた人生に (野口る理)

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆