◆米国のオバマ大統領は遊説からワシントンに戻るとそのまま仏大使館を弔問に訪れ、記帳した。「われわれが支持し、世界を照らす理想と自由に、テロは太刀打ちできない」。最後はフランス語で締めくくった。「フランス万歳」。この記事を読んで僕は、『最後の授業』を思い出した。

◆フランス領アルザス地方。勉強嫌いのフランツ少年は、その日も学校に遅刻していくと教室の後ろに村の大人が大勢集まっている。なにやらただならぬ雰囲気だ。「戦争でフランスが負けたため、アルザスではドイツ語しか教えてはいけないことになりました。これが、私のフランス語の、最後の授業です。」

◆「フランス語は世界でいちばん美しく、一番明晰な言葉です。そして、ある民族が奴隸となっても、その国語を保っている限り、牢獄の鍵を握っているようなものなのです」。先生は黒板に「アルザス万歳!フランス万歳!」と大書して最後の授業を終える。

◆昨日は「成人の日」。126万の新成人が誕生した。日経新聞の土曜版、日経プラスは「20歳だった私へ、今伝えたいこと」という特集だったが、「勉強しよう」は第3位だった。僕なら1位に挙げるし、フランツ君もきっと1位に挙げるだろう。

◆成人になった君たちは、酒も飲めるしタバコも吸える。何をしても自由だ。しかし、覚えておいてほしい。自由には責任が伴うということを。大人になるということは自分の言動に責任が取れるということ。そして自分の言動で、ひとがどのような思いをするか、他者への心配りができるということだ。

◆フランスの風刺週刊紙「シャルリエブド」への銃撃事件に怒りの声が全世界で湧き上がっている。卑劣なテロは決して許されない。暴力で言論の自由が脅かされることなど断固としてあってはならない。しかし、自由だからといって何を言っても、何を書(描)いてもよいかというのは難しい問題だ。守られるべき最低限の節度というものがあるはずだが、その線引きをどうするか。風刺の場合、「笑える」「笑えない」というのがひとつの目安になるだろう。無論、ユーモアだって受け手によってはそう解釈できない場合もあるのだが。

◆言論の自由を守れ、というときの決まり文句は「ペンは剣よりも強し」。だが僕は米国の女優、メイ・ウェストの言葉のほうが好きだ。「曲線美は剣よりも強し」。こういうジョークで笑っていられる平和な世界が訪れないものか。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆