◆古いフランス映画で『恐怖の報酬』というサスペンス・ドラマがあった。道悪のなか、ニトログリセリンをトラックで運ぶ仕事を請け負った男たちの恐怖を描いた心理劇である。投資の世界でも「恐怖の報酬」はある。ハイリスク・ハイリターンといわれるように、リスクを負担するから、その見返りにリターンがある。投資の世界ではボラティリティ(価格の変動性)をリスクとする。ところが最近そのボラティリティが落ちている。

◆「恐怖指数」という名称で知られるシカゴのVIX指数は、市場参加者が将来のボラティリティをどのように見ているかを表すものだ。日本にも同様の日経平均ボラティリティ・インデックスがある。これらの指数はいずれも過去の最低水準近くに低下している。市場参加者はこの先のボラティリティ、すなわちリスクが高まらないと予想しているのである。

◆リスクのないところにリターンはない。それならこの低ボラティリティ=低リスクのマーケットで株を買っても儲からないか?というとそうでもない。最近の研究では、リスクの低いもののリターンが高く、リスクの高いもののリターンが低いという事実が報告されている。このことは「ボラティリティ・パズル」とか「ボラティリティ・アノマリー」といわれる。現実の投資成果はハイリスク・ハイリターンになっていないのである。事実、ボラティリティが下がるなか米国株は最高値更新、日本株だって6連騰だ。

◆映画では、「何もしないで2000ドルか」と怖気づいた男がなじられる場面がある。それに対して男はこう反論する。「ただ車に乗っているだけでカネを貰うわけじゃない。そのカネは恐怖に対する報酬なのだ」と。怖いのはガタガタ揺れるから。ニトロを積んでいたって揺れなければ怖くない。相場も同じである。値動きが荒くなければ安心して投資できる。恐怖に耐えることなく報酬が貰えるならば、株式相場という名のトラックに乗るのは結構、割りの良い仕事かもしれない。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆