◆松任谷由実『恋人がサンタクロース』は、山下達郎の『クリスマスイブ』と並ぶクリスマスソングの定番である。この歌の面白いところは、役柄の転換にある。隣の家のオシャレなお姉さんが、「今夜8時になるとサンタがやってくる」という。それを聞いた子供時代の<私>は「違うよ、それは絵本だけのお話」だと反論。そういう<私>にお姉さんは「あなたも大人になればわかる」とウィンクするのだった。
◆サンタクロースの存在を信じるのは子供の役割だ。大人はもちろん、サンタがいないことを知っている。それが、この歌の中では逆転している。その逆転の構図が、恋人がサンタクロースなのだ、という洒落たメッセージを引き立たせる演出効果を生んでいる。
◆米国の運用会社、ニューバーガーバーマンの共同創業者であるロイ・ニューバーガー氏は4年前のクリスマスイブに107歳でこの世を去った。彼の自伝のタイトルは「So Far So Good: The First 94 Years(これまでのところ、まずまずだ。初めの94年間)」。これもひねりが効いている。「初めの94年間」なんて、普通は言えない台詞である。
◆外資系の会社に勤めていた時の上司からよく、「(Get)Out of the box!」 と言われた。直訳すれば「箱の外に出ろ」、すなわち「枠を超えろ」「殻を破れ」「常識にとらわれるな」という意味である。大人がサンタを信じていい。94歳が「これまでのところ、まずまず」と言っていい。「Out of the box」 - 大事なことである。ビジネスでも、投資においても。
◆「ボックス相場」という言葉がある。一定の幅のなかで上下動を繰り返す値動きとなることをいう。ボックス相場では、(上値)抵抗線と(下値)支持線に挟まれたレンジが意識されるが、抵抗線も支持線も実際には存在しない。観察者が勝手にイメージしているだけである。相場はいつかボックスを放れる。一度、放れたら速い。留意が必要である。
◆長期的な観点から俯瞰すると、日本株はボックスを放れ、大きな相場が始まっていると考える。これまで過去数年、「相場の常識」だったことはもはや通用しないだろう。デフレ停滞期に形成された「常識」よりも、もっと大きな視座で捉えることが必要だと思う。
◆僕の娘も小学2年生。そろそろサンタクロースの存在について本当のことを教えてやるべき頃だと思って、先日こう言った。
「ごめんよ、いままで、ずっと隠していたんだけど...あのね、サンタクロースは本当はいないんだ。パパがサンタさんだったんだよ!」
「うん、知ってたよ、そんなこと。それからパパがコウノトリだってこともね」
メリークリスマス、素敵な聖夜を。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆