◆苦しみて生きつつをれば枇杷の花終りて冬の後半となる(佐藤佐太郎)
枇杷の花は木犀に似ているが香りはずっと控えめだ。初冬に咲く枇杷の花が終わってこれからが冬本番という歌である。「苦しみて生きつつをれば」に詠まれている通り、このころの佐太郎は貧苦のどん底にあった。
◆先日取り上げた欽ちゃんの「私の履歴書」は、貧しい少年時代や下積み生活の苦労が報われて、人気絶頂の時代に入ってきた。その「私の履歴書」が載っている日経新聞文化面にこれもまた驚くような記事があった。80歳で水泳を始め、数々の世界新・世界初の記録を作り続ける、100歳の現役水泳選手・長岡三重子さんの手記である。多くの苦難を乗り越えてきた長岡さんはこう綴っている。「何事も苦しい目を見ないといけん。怠けたらろくなことがない。苦は楽の種、楽は苦の種。えらい目をみたら、それだけの報酬がある」
◆人生における苦難に比べたら、たかが知れているが相場も同じである。苦しい目にあうからこそ、それを凌いだ先に喜びが待っている。今年を振り返えると日経平均は、いったい何回、急落と急騰を繰り返してきたことだろう。下げるときは大幅安。行き過ぎと思われるところまで急落する。米国市場が持ち直すと今度は慌てて買い戻す。いい加減、学習効果が出てもいいと思うのだが、一向に懲りない。しかし、今後は徐々に押し目買いの効能が市場に浸透してくるだろう。厳しい下げも恐怖に耐えて買い向かえば、その後は大きく報われるという成功体験が生まれているはずだ。
◆もっとも押し目買いが奏功するのは、相場の基調が上向きの時。よって中期的な相場観が大事だが、小欄でも何回か取り上げたように、季節的に株式相場はこれから良い時期を迎える。今日は冬至である。日一日と昼が長くなってくる。日照時間の変化と株式市場の好不調には相関があるのだ。
◆「冬至冬中冬はじめ」という。冬至は冬の真ん中であるが、実際の冬本番はこれから。株式相場も、本当においしい時期はこれからである。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆