◆今日12月12日は、「いい字一字」と読んで、漢字の日。日本漢字能力検定協会が全国から募集したその年の世相を象徴する「今年の漢字」を発表する。清水寺の森清範貫主が大きく揮毫する映像がニュースで流されるなど、いまやすっかり年末の風物詩として定着した感がある。
◆それもそのはず今年で20回を数えるという。阪神淡路大震災で幕を開けた95年の漢字「震」以来、昨年の「輪」まで19個並んだ歴代の「今年の漢字」を眺めると、明るいものより暗いイメージの漢字が多い。確かに過去20年間デフレに苦しめられた日本経済を思えば、世相を映す「今年の漢字」が暗くなりがちというのも頷ける。
◆さて今年の漢字、本命は「嘘」であるそうだ。まあ、納得がゆくところだろう。STAP細胞騒ぎを筆頭に、くだらないところでは野々村議員の政務費不正問題、ほかにも朝日新聞の報道、佐村河内氏のゴーストライター問題など嘘のオンパレードだった。そういえば一昨日の小欄が取り上げた話題も「嘘」に関するものだったっけ。
◆本命が「嘘」なら対抗は「税」か。4月に上がった消費税の影響でその後の消費低迷が続いている。こんな景気状況では来年にもう一度、消費税を引き上げることは決められない。かくして来年の増税は先送りされ、安倍首相は国民に信を問うとして衆議院を解散、師走の総選挙へとなだれ込んだ - というのは「嘘」である。
◆どこが嘘かといえば、まず初めの「消費税の影響で消費低迷」というところだ。無論、消費税の影響はある。しかし、それは消費税の引き上げ分も含めた物価全体の上昇に、賃金の伸びが追い付いていないことが主因である。実質所得の伸びがマイナスでは消費が振るわないのも当然である。増税の影響よりも、真の意味でデフレ脱却が出来ていないことが問題なのだ。
◆後段の「嘘」の部分、解散総選挙の成り行きについては再三書いてきたからもう言うまい。経緯はともかく、増税延期は正しい選択であると僕は考える。後は政策の軸をブラさず、デフレ脱却という当初掲げた大目標をしっかりと追求してもらいたい。物価の上昇以上に所得も伸びて消費回復という好循環を作り出せたなら、それこそ「嘘から出た真」である。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆