◆「私、失敗しないので」 高視聴率ドラマ「ドクターX ~外科医・大門未知子~」主人公のキメ台詞。大門未知子は組織に属さない一匹狼、フリーランスの外科医だが、手術の腕は超一流、高額な派遣料を稼ぐ。まるで「ゴルゴ13」だ。余計なことを一切やらない、というのもゴルゴ13に似ている。余計なことというのは、院長回診にお供すること、上司の論文作成の手伝いをすること等、つまり権威にはべることである。そういうことは一切、「いたしません」。その台詞もお決まりとなっている。
◆こんなセリフ、プロなら一度は言ってみたいところだが、「私、失敗しないので」と言うファンドマネージャーがいたとして、彼はおカネを集められるだろうか?そうは思えない。おカネが集まるのは、「大化け株の見分け方、教えます」とか「お預かりした資金を10倍に増やします」というような派手な宣伝文句を掲げるひとのほうだろう。もちろん、それで本当に資金が10倍になったなどの話は聞いた試しがない。
◆チャールズ・エリス『敗者のゲーム』によれば、プロのテニスプレーヤーはエースを奪い合って勝負が決まるが、アマチュアの点の入り方はたいていミスによるものである。ゴルフでいいスコアを出すには、「ナイスショットを打つ」ということよりも、「ミスショットを打たない」ということに意識を向けるべきである。エースやバーディを狙わない。投資で言えば大勝を狙わない。それではつまらないかもしれない。だが大勝もない代わりに大負けもない。負けないこと -つまり、失敗しないこと、それが投資の世界で「勝つ」ということである。
◆「私、失敗しないので」と「いたしません」。このふたつの台詞は、セットである。つまり、余計なことを一切「いたしません」から「私、失敗しないので」ある。上司におべんちゃらを使っている暇があるならプロとしての技を磨く。だから仕事の精度が高まるのだ。これはプロフェッショナル全般に言えることである。プロフェッショナルとは職業人のこと、すなわちサラリーマンのあなただってプロフェッショナル、プロのサラリーマンである。さて、余計なことを一切「いたしません」と言えるだろうか。そうありたいと願っても、現実の世の中、なかなかそこまで割り切れるものではない。割り切れない浮世の憂さをドラマのなかでは爽快に晴らしてくれる。「ドクターX」人気の秘密はそこにあるのだろう。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆