◆僕が教壇に立っている青山学院で、先週金曜日の夕暮れにクリスマスツリー点火祭が行われた。聖歌隊が讃美歌を歌い、参列者が祈りをささげるなか、キャンパス中央にある大きな木に灯が点される。ミッション・スクールのイベントは厳かな雰囲気があってとてもいいものだ。

◆キリスト教の暦では昨日の日曜日からアドベント(待降節)に入っている。アドベントとは、イエス・キリストの降誕を待ち望む期間のこと、すなわちクリスマスを迎えるための準備期間である。語源は「到来」を意味するラテン語「アドべントゥス」。「キリストの到来」のことであり、ギリシア語の「エピファネイア(顕現)」と同義である。ちなみに昨日、東京競馬場で行われた競馬のG1レース「ジャパンカップ」で優勝した馬の名前は、エピファネイア。アドベントの始まりに、まさにエピファネイアが1着で「到来」したわけだ。

◆一般に、クリスマス(12月25日)はイエス・キリストの誕生日を祝う日であると思われているが、正しくはキリストがこの世に降誕したこと(誕生日ではない)を祝う日である。キリストがいつ生まれたかは正確に分かっていないのである。では、なぜこの時期にキリストの誕生を祝うことになったかと言えば、冬至の時期と関係している。一年で最も暗いこの時期に、世界を光で明るく照らしてくれるイエス・キリストを祝福するのである。

◆トルコを訪れているフランシスコ・ローマ法王は、イスラム教のモスクを訪問し無言の祈りをささげた。宗教間対話の重要性を訴える静かだが、確かなメッセージだ。人類の歴史を振り返れば、民族と宗教の問題がたいていの戦争・紛争の背景となってきた。トルコの隣国のシリアやイラクでは、イスラム過激派組織「イスラム国」によるキリスト教徒や少数民族への迫害が続いている。ジョン・レノンが、君が望むなら戦争を終わりにできる、と歌ってから40年以上が経った今も、世界のあちこちで戦火が絶えない。かの地で、幸せにクリスマスを祝えるひとびとはどのくらいいるのだろうか。

◆平原綾香がニューアルバム『Winter Songbook』で、ジョン・レノンの「Happy Xmas (War Is Over)を自身が訳した日本語でカバーしている。レノンの名曲を彼女の日本語で聴くと新たな感動がある。今宵はクリスマス どんな1年だった?と自分に問いかけられている気持ちになる。今日から師走。あと1カ月で今年も終わる。どんな1年だった?今年を振り返る季節になった。それはまた来年へ、そしてその先の未来への準備期間にもなる。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆