◆「広木さんはいつ寝ているのですか?」という質問をよく頂戴する。ちゃんと夜寝ています、とお答えしているが、「ちゃんと眠って」いるかは怪しい。第114回で1週間酒を抜いたら眠りが深くなったというようなことを書いたが、逆に言えば毎晩深酒して寝ているのは、眠りが浅いということだ。事実、ちょくちょく目を覚ましてはニューヨークの市況をチェックしたりしている。そんなことをしているうちに考え事があれこれ頭の中を巡り眠れなくなり、気が付くともう朝...と平日は毎晩そんな感じである。

◆今は実践できていないのだが、僕自身は元来、睡眠を大事にする人間である。学生時代、試験勉強が間に合わなくても諦めて夜は寝てしまった。無理に睡眠時間を削っていまさら2~3時間多く勉強するより、しっかり眠って試験に臨んだ方が頭が冴えて本番で良いパフォーマンスを発揮できる。単に勉強したくない方便にも聞こえるが、ずっとそんなふうに考えてやってきたから、麻雀以外で夜を徹して何かをしたことはない。

◆東京証券取引所は、検討していた現物株の取引時間の拡大を見送ると発表した。夜間取引を中心に可能性を探ってきたものの大半の証券会社から同意を得られなかった。東証はこのまま取引時間を拡大しても多様な参加者が見込めないとの認識を示すが、本当だろうか。日経の報道によれば、<対面型証券からは「深夜業務などの負担を懸念し、かなり強い反対があった」。大手証券も全般に消極的で、国内外の機関投資家も積極参加する姿勢に乏しかった>という。それはそうだろう。そんなことは初めからわかりきったことだ。コストがかかるのが嫌なら参加しなければいい。それだけのことではないか。

◆いまや日本株の最大の取引主体は外国人。保有比率という点でも外国人が最大の株主だ。その外国人の多くを占める欧米の投資家にとって、日本の昼は彼らの夜であり、日本の夜は彼らの昼である。

◆以前、当社の米国子会社、トレードステーションの顧客向けに、日本のアベノミクスを説明するオンラインセミナーを実施したことがある。どの時間帯がもっとも好都合か、と現地に尋ねると日本時間の夜、すなわち米国の昼間におこなってほしいという答えでやや意外感があった。と、いうのは日本でオンラインセミナー実施時間についてアンケートをとると夜の時間帯を希望する声が多いからだ。日本人は夜がいい。米国人は昼がいい。ならば株式取引を日本時間の夜間におこなう意味はじゅうぶんあるのではないか。

◆米国の担当者に質問した。「日本ではオンラインセミナーの希望は夜が多いのに、どうして米国のお客さんは昼の希望が多いのだろう?」彼の答えはこうだった。「当たり前じゃないか。夜は眠るための時間だからだよ」

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆