◆僕の新刊『勝てるROE投資術』が発売されて1週間あまり。おかげさまで出足は大変好調で、早くも増刷が決まった。自分でも驚いている。好調な理由はいくつかあるが、同書で扱ったテーマが時宜を得ていたことが最大の理由だろう。単なるROE(自己資本利益率)の解説にとどまらず、コーポレートガバナンスやJPX日経400という新指数、自社株買い・増配といった株主還元策、日本版スチュワードシップ・コードなど、アベノミクスが後押しする企業改革の大きな流れを俯瞰する一冊となっているのが特徴である。
◆もうひとつ重要なのが本のタイトル(題名)である。出版の世界では、本が売れるには「タイトル8割、装丁2割」と言われるそうだ。確かに自分が書店の本棚を眺めているとき、タイトルに惹かれて手に取ることが多い。但し、日本のビジネス書のそれは「なぜ~は~なのか?」のように直截的なものばかりで、味気ない。
◆その点、アメリカのファンドマネージャーが書いた本のタイトルは洒落たものが多い。例えば、ジム・ロジャーズの『大投資家ジム・ロジャーズ世界を行く』。ジム・ロジャーズが愛車BMWの大型二輪を駆って、金髪美女とともに世界を旅する話だが、原題は"Investment Biker"という。無論、インベストメント・バンカーとの掛け言葉だ。著名ストラテジストからヘッジ・ファンドマネージャーに転身したバートン・ビッグスの『ヘッジフォッグ』。ヘッジファンド業界の裏話満載の同書はヘッジファンド屋をハリネズミ(Hedgehog)に喩える。Hog とは豚のこと。口語で「豚みたいにガツガツ食べる、貪欲な」という意味がある。まさにhedgeファンド屋はHog(貪欲)ということだ。
◆日本の金融関係者の本のタイトルで一番秀逸だと思ったのは、JPモルガンの債券為替調査部長をされている佐々木融さんが書かれた『弱い日本の強い円』である。円高のピークに発刊された同書はベストセラーになったが、少子高齢化で人口が先細り、長期デフレで景気が低迷する、この「弱い日本」の通貨、円がなぜ世界最強なのか?という疑問を見事に投げかけたタイトルとなっている。無論、内容も素晴らしいものである。
◆かように本のタイトルは重要である。僕の新刊のタイトルを出版社と打ち合わせていたときのこと。担当の編集者が、「最近はウェブの言語解析機能が格段に向上して、キーワードを入力するだけで、売れそうな本のタイトルを教えてくれるサイトがあるんですよ」という。よし、早速やってみようということで、「ROE」と入力した。出てきた結果は、「女医が教える本当に気持ちのいいROE」。いくらアルファベット3文字だからって...。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆