G7が監視する「近隣窮乏化政策」

G7財務相会議は、10月中旬に発表した共同声明で、為替相場について、「2017年5月の為替相場についてのコミットメントを再確認する」とした。では、この「2017年5月の為替相場についてのコミットメント」とはどういうものかというと、以下のように比較的広範囲について詳細に言及した内容となっていた。

<2017年5月12日、G7財務相会議共同声明>
「我々は、為替レートは市場において決定されること、そして為替市場における行動に関して緊密に協議することという我々の既存の為替相場のコミットメントを再確認する。我々は、我々の財政・金融政策が、国内の手段を用いてそれぞれの国内目的を達成することに向けられてきていること、今後もそうしていくこと、そして我々は競争力のために為替レートを目標にはしないことを再確認する。我々は、全ての国が通貨の競争的な切下げを回避することの重要性を強調する。我々は、為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得ることを再確認する」

この中で、「競争力のために為替レートを目標にはしない」、「通貨の競争的な切下げを回避する」といった表現は、ともに通貨安政策の否定という意味になる。輸出競争力を向上させて景気回復を目指すべく通貨安に誘導することを「近隣窮乏化政策」と呼ぶが、その否定がG7財務相会議の為替合意の柱になっていた。

以上のように見ると、為替合意「違反」が疑われるのは、基本的には通貨安の国だろう。意図的に通貨安に誘導し、輸出主導で景気回復を目指しているのではないかということ。この点にこれまで関心が高まらなかったのは、「世界一の経済大国」米国の景気回復が続いたことが大きいだろう。逆に言うと、景気が悪化すると、通貨安への監視は一気に厳しくなる可能性がある。

米国好景気の影に、咎められずに来た円安

米国より先に景気悪化懸念が浮上してきた欧州では、一部にユーロ高・円安への批判も出始めたようだ。これが米国にも波及することになると、円安への監視、つまり意図的な円安容認、「近隣窮乏化政策」ではないかといった国際的な見方はさらに広がることになりかねない。

これは、日本から見た一般的な感覚とズレがあるのではないか。日本国内の感覚は、今の円安は物価高を後押しする「悪い円安」であるから止めてもらいたいが、外国との関係もあり止めたくとも止められず、またいつまでも金利も上げられない日本経済からすると円安は止められなくなったのではないか、という感じだろう。それが、「世界一の経済大国」米国の景気回復が予想以上に続く中で、「悪い円安も止められない日本」といった被害者論の要素が強くなった感じがする。

欧米から円安への批判が強まらないのは、特に米景気回復が続いている中では関心がないということが基本であり、日本が円安を止めようとすることに対し反対する理屈は考えにくいのではないか。それどころか景気が悪化に向かうと、円安放置が批判されかねない可能性もあるだろう。