今年のノーベル賞は、ボブ・ディランの文学賞という大サプライズで幕を閉じました。この話題性で他のニュースが若干かすんでしまった感もありますが、今年も日本人は健在でした。

大隅良典・東京工業大学名誉教授がノーベル生理学・医学賞で「単独受賞」の栄誉に輝きました。資力と労力が必要な自然科学分野では、「単独受賞」は今や世界でも珍しく、女性受賞者に至ってはこの33年間1人も出ていません。日本人でも、湯川秀樹氏、利根川進氏に次ぐ3人目、29年ぶりの快挙です。

一方、ノーベル物理学賞では、2014年、15年と続いていた日本人の受賞はありませんでした。栄誉を手にしたのは英国出身の3人。私事で恐縮ですが、父と兄が物理学者なので、先日この結果について聞いてみました。曰く、事前報道での予想は様々出ていたものの、今回の結果はかなり順当だったとのこと。

物理学は、ミクロな世界や壮大な宇宙を議論する素粒子物理学と,身近な物質の性質を解明する物性物理学に大別でき、それぞれについて理論と実験の分野があります。これらの4分野の中で、ある程度順繰りにノーベル賞を受賞していますが、最近受賞していなかったのが、「物性の理論」でした。そして今年は、その物性理論分野のトップスターである、サウレス、ハルデーン、コスタリッツが順当に受賞したというわけです。

では来年は... 既に物理部門には、「当確」があります。今年初めに世界中が湧いた宇宙の「重力波」の観測です。重力波とはアインシュタインが1916年に予想した時空の歪みが伝搬する波のこと。「時空のさざ波」というロマンチックな表現もあります。検証作業のため初観測から1年は様子を見るのが通例なので、今年受賞しなかったのも当然。ゆえに来年受賞との呼び声が極めて高いようです。

これは、「素粒子の実験」分野です。それもあって、今年のノーベル賞は物性理論分野だったという穿った見方もあるようです。年初に初観測を遂げた米国のLIGO(ライゴ)チームは1,000人の大所帯で取り組んでいます。日本でもKAGRAという250人余りのチームが今年試験稼働しました。大隅氏のケースとは対極で、まさに世界の科学者が一丸となって研究を進めています。

重力波が来年のノーベル賞だとすると、その関連銘柄は...などと無粋なことはひとまずおいて、秋の夜長、時空のさざ波に心を傾けるのも一興かもしれません。

マネックス証券 チーフ・アナリスト 大槻 奈那