観測史上最高を更新、記録的な猛暑日が続いた2023年の夏
今回は「暖冬関連銘柄」について解説したいと思います。2023年の夏は本当に暑かったですね。9月1日に気象庁は2023年の夏(6~8月)の平均気温は平年よりも+1.76度高く、統計を取り始めた1898年以降で「最も暑い夏」であったと発表しました。
夏休みの7月中旬から8月下旬にかけて、日本列島は毎日のように猛烈な暑さに包まれました。東京の都心部では8月に31日連続で気温が30度を超える「真夏日」を記録しました。1ヶ月のすべてが真夏日となるのは初めてのことです。
また、全国の観測拠点(915ヶ所)のうち、106ヶ所で気温が観測史上最高を更新しました。まさに「異常気象」というものを肌で感じた夏でした。
その暑さは9月になっても一向に収まる気配が見えず、9月28日、日本列島は広い範囲で好天に恵まれ、静岡市清水区、静岡市駿河区、甲府市、三重県桑名市の4つの地点で最高気温が35度を超える「猛暑日」となりました。
関東甲信や東海地方で9月下旬に猛暑日を迎えたのも史上初です。この日の東京都心の最高気温は33.2度でした。都心部で気温が30度以上の「真夏日」となったのは、夏から秋にかけて90日目となり、これも年間の最多記録を更新しました。
全国の「猛暑日」も9月1日から28日までの間で、延べ385地点に広がり、気象庁が統計を取り始めた2012年以降、2020年の485地点に次いで2番目に多くなっています。
昔から「暑さ寒さも彼岸まで」と言われるように、季節の変わり目のこの時期(10月)は過ごしやすくなります。しかし、2023年は秋のお彼岸(9月20日前後)になっても真夏のような暑さが続いていました。お墓参りで帰省しても半袖と短パンで過ごされた方も多かったのではないでしょうか。
以上、「2023年の夏は暑かった」という根拠を書き連ねてみましたが、地球温暖化は私たちの日常生活に着実に広がっています。そこにフェーン現象やエルニーニョ現象という、複雑な地球規模の大気変動が絡み合って、地球の気温を押し上げています。
秋が夏のように暑いとビジネスには確実に影響が出てきます。アパレルショップではセーターや長袖シャツなど秋物用品が売れず、アウトドアショップも秋の到来に合わせて、ピクニック、ウォーキング、キャンプ用品の売り場をどれくらい広げれば良いかに苦慮します。
スーパーマーケットでは、おでんや鍋料理の具材の仕入れ、陳列スペースの確保に頭を悩ませます。夏は夏らしく、秋は秋らしく、ごく普通の陽気になってくれるのがここでは肝心です。
天候は人々の毎日の暮らし方、行動に大きく影響します。商売をしている方々にとって悩みの尽きない季節です。それだけに日常とは異なる異常な気象環境には注意が怠れません。
2023年の冬は、平年より気温が高い暖冬の到来
2023年の夏の暑さはまだ続きがあり、秋がなかなか訪れません。気象庁から9月中旬に発表された、2023年12月~2024年2月の長期予報によれば、この冬は冬型の気圧配置が弱くなり、全国的に気温が平年よりも高くなりそうです。日本海側の降雪量も少なくなる見通しです。
気温は東日本、西日本、沖縄・奄美で「平年より高い」とみられ、北日本で「平年並みか高い」と予想されます。関東甲信地方も寒気の南下が弱く、この冬の気温は「平年より高い」、暖かい冬、暖冬の到来です。
降水量は、東日本の太平洋側と西日本で「平年並みか多い」、北日本、東日本の日本海側、沖縄・奄美で「ほぼ平年並み」と予想されます。
気象庁は予報の理由として、偏西風の蛇行を挙げています。その上で偏西風の蛇行には、ペルー沖の「エルニーニョ現象」と、インド洋の「ダイポールモード現象」が影響しているとみています。
「エルニーニョ現象」はあまりに有名です。南米ペルー沖の海水温が上昇することによって赤道付近の積乱雲の活動が活発になり、地球全体で気温が高い状態に保たれる現象を指します。
それにより、太平洋高気圧の張り出しが強くなり、偏西風が例年よりも北寄りを流れることから、北方の冷たい空気が南下できず、日本列島は暖かい空気に包まれて、夏は暑く冬は暖かい日が続くことになります。
2023年は「エルニーニョ現象」が4年ぶりに発生しました。2018~2019年以来のことです。夏に発生したのは2015年以来8年ぶりで、気象庁では「海水に蓄えられた熱量が大きいため、2023年は強いエルニーニョ現象になる可能性がある」と見ています。これから冬にかけて影響はさらに強まるとみられます。
「エルニーニョ現象」は暖冬関連銘柄にも影響を与えるか
「エルニーニョ現象」の歴史は古く、16世紀のはじめ、スペインの船乗りがエクアドル海岸の沖合いを航行していたときに、季節外れの降雨と温暖な気象を報告しています。
19世紀にはペルーの漁師が、パイタ港からパカスマヨ港まで航海したときに、海岸沿いに南に向かう暖かい逆流が生じて、漁に壊滅的な影響を与えていることに気づきました。
彼らは、これらの現象がクリスマスの後に現れることから、スペイン語で「幼いキリスト」という意味の「エルニーニョ」と名付けました。
エルニーニョは明らかに一度だけの現象ではなく、何千年もさかのぼることのできる再現性のある現象です。考古学上の痕跡をたどると、1100年にペルーで起きた壊滅的な洪水は疑いなくエルニーニョ現象の結果だと見られています。
木の年輪や氷のコアの研究からエルニーニョ現象は、2~7年ごとに発生することが判明しています。自然界に起こるあらゆる現象の中でも、エルニーニョは気象学上の現象として、最も広い範囲で悲惨な影響をもたらすものとされています。
暖かい時期に起こるエルニーニョと冷たい時期のラニーニャは、季節違いに非常に不規則に起こる現象ですが、どのようにして発生するのか、なぜ発生するのか、今でも完全には明らかになっていません。しかし、ひとたび発生すると、そのサイクルや進行は予測することが可能です。
エルニーニョの冬は北半球では、ペルー、エクアドル、チリの海岸で例年より雨が多く降り、農民には恩恵があります。しかし、海は例年より暖かくなるため漁民には打撃となります。赤道のすぐ南に位置しているにも関わらず、ペルー沖の海水は通常は冷たく、豊富な漁獲量を支える栄養に富んでいますが、エルニーニョはそれを覆します。
米国の南部やカリフォルニアでは湿った空気がジェット気流によって運ばれ、通常より雨が多く降ります。米国東部、カナダ西部、中国東部、そして日本では通常より暖かくなります。オーストラリア、インドネシア、ブラジル北部、アフリカ南東部は通常より乾燥することが多くなります。
エルニーニョが観測された1983年は、ペルーで大規模な洪水や地滑りが起こりました。オーストラリアは全土で空気が乾燥し、悲惨な山火事が発生しました。タヒチ島はサイクロンに襲われ、インドやスリランカは干ばつ、インドネシアやフィリピンは農作物の不作で多くの死者が出ました。南アフリカでも干ばつ、飢餓、疫病が発生しています。
「神の御子」、「幼いキリスト」エルニーニョは、発生の原因もその及ぼす影響も判断することがきわめて難しいのですが、ひとたび発生すると地球上のきわめて広い範囲に大きな影響をもたらすものとして警戒されています。
暖冬がメリットとなる業種、デメリットとなる業種
夏の猛暑をもたらした「エルニーニョ現象」が、今度は日本の冬に暖冬をもたらすと予想されています。猛暑と同様に、暖冬は経済にとってあまり良い影響はありません。
アパレル業界にとって単価の高い秋冬商戦は重要な時期ですが、これが売れなくなると年間の収益計画に大きな影響が出ます。食品メーカー、スーパーマーケットも鍋物やおでん、冬物衣料、防寒グッズの売れ行きが厳しくなりかねません。
ストーブ、エアコンなど暖房機器や調理家電、毛布などの寝具を扱う家電量販店、ホームセンター、インテリアショップも同様です。
スキー場、スケート場、雪山登山などの冬のレジャーを前面に出している施設、ホテル・旅館、鉄道会社、旅行各社も影響が及ぶと見られます。
暖冬で潤う業界は少ないのですが、その中でテーマパークはメリットが及ぶと考えられます。猛暑の夏は客足が減少してしまいますが、気温が高めの冬であれば来場者の増加が予想されます。
屋外での活動もしやすくなるため、ランニング、ウォーキング、ハイキング、旅行に出かけるには好都合です。折しもアフターコロナで人々の間では、日常的に健康的な暮らしを指向する動きが高まっています。スポーツ用品などにあらためて注目しておくのも良さそうです。
暖冬により、新たな恩恵を受けるかもしれない関連銘柄
以下、暖冬に関連する銘柄を紹介したいと思います。
オリエンタルランド(4661)
言わずと知れた「東京ディズニーランド」の運営母体企業。本国の米国以外で最も成功しているディズニーランドでもある。大株主は京成電鉄(9009)、三井不動産(8801)。2023年で開業から40周年を迎える。2024年春には「アナと雪の女王」、「ピーター・パン」、「塔の上のラプンツェル」をテーマにした新しいエリアを開業。インバウンド消費の賑わいも加わり、さらなる来場者増が見込まれる。
サンリオ(8136)
「ハローキティ」、「マイメロディ」、「シナモロール」など独自のキャラクターを生み出す世界的なコンテンツ企業。世界に向けて日本の「かわいい」文化を発信する象徴的な存在。版権ビジネスを中心に据えたIP(知的財産)創出企業としての抜本的な経営改革に挑み成功しつつある。コロナ禍からの経済再開、インバウンド回復もあって「サンリオピューロランド」、「ハーモニーランド」のテーマパークも復調し業績は急回復。
アシックス(7936)
「オニツカタイガー」で知られるランニングシューズを手がける大手企業。海外売上比率が8割に達し、日本国内よりも海外で人気が高い。コロナ明けで2023年からスポーツイベントが全世界で再開。人々の健康志向の高まりはランニングブームに繋がり、1-6月の第2四半期は売上高が3割近く伸びて過去最高を更新した。営業利益も7割増益と本格的な業績拡大期に入ったと見られる。
ミズノ(美津濃)(8022)
スポーツビジネス業界では売上高がアシックスに次いで国内2番手。アシックスがシューズに比重を置いているのに対して、ミズノはウェア、シューズ、運動用品まで幅広く手がけている。対象競技も野球に始まり、ゴルフ、競泳、陸上、バレーボールなどスポーツ全般に及ぶ。今期は契約選手の宮﨑敏郎選手(横浜DeNAベイスターズ)がセントラルリーグの首位打者を獲得した。非スポーツのワークアパレル事業も急速に伸びている。
参考文献:
『なぜ風は吹くのか』(2008年、鹿島出版会)
『異常気象と気候ビジネス』(2018年、日本評論社)